3話 友達


 校内の廊下を歩き数分。

 教官室と書かれた札が見えてきた。

 ここまで歩いてきて思ったが校内の中も、さすが貴族の学校といわんばかりに、シミ一つないほど壁面は真っ白であり、埃の一つも見当たらないほど掃除が行き届いている印象だった。


 やはり、場違いだ。

 だが、いつまでもそんなことは言ってられない。

 早くここに慣れないとな。

 教官室の前へ着いたところでロミオが口を開いた。


 「ここが教官室だよ」


 「ありがとな、ロミオ、それじゃあ教室で」


 「……」


 ロミオは下を向き返答がない。


 「どうかしたのか?」


 ロミオは下を向きながら思い詰めたように暗い表情で話し始めた。


 「教室……いや、クラスのみんなの前では、その……僕に関わらない方がいいよ……というか、僕とはこれ以上関わらないほうが、ユーリの為にも……いいと思う」


 「急にどうしたんだ? 俺はロミオのことをすでに友と思って接していたんだが……嫌だったか?」


 この学校で始めて会話した相手ということもあるが、

 それ以前に、俺はロミオと話していてとても心地がよかった。

 だがそれは、俺の一方的な思いで

 ロミオは俺のことをよく思っていなかったのだろうか……


 「い、嫌じゃないよ! しかも、友……そ、そんなふうに思ってくれてたなんて……本当に嬉しい。 僕もユーリとお話しできて、すごく楽しかった……」


 ロミオは少し強めの口調で否定し、悲しげな笑顔を向けた。


 「じゃあ、どうして……」


 ロミオは少しだけ間を置いて、口を開いた。


 「僕はね……クラスのみんなから、あまりよく思われていないんだ……理由もあるんだけど、……僕がこんなんだからいけないんだろうね」


 「ハハハ……」と苦笑いをしながらロミオは続ける。


 「だからこれ以上、僕と関わると、ユーリまで不幸になっちゃう……こんな僕に普通に接してくれる、優しい人が僕のせいで不幸になるのは……いやだよ。……だからこれ以上は―」

 

 「そんなこと関係ねえ!」


 俺はロミオの言葉を切り、口を開いた。


 「俺はもう15だ!自分の道は自分で決める!自分が一緒にいたいと思うやつとは一緒にいたいし、他人がどうこう言おうが関係ねえ!そもそも俺はお前と一緒にいて不幸になったりはしない!むしろ、お前が不幸なら俺が全力でその不幸から助け出してやる!」


 「だから、俺と……」俺は言葉を詰まらせながら続ける。


 「友達になってくれ……ないか?」


 俺は少し照れながらそう口にした。


 「……」


 すると、

 ロミオはメガネ越しからもわかるくらい、碧眼の瞳から涙があふれた。

 俺は反射的に、謝罪の言葉を述べていた。


 「わ、悪い!そんなつもりは……い、嫌ならいいんだ、急に友達になってくれなんて、配慮が足りなかったよな、ほんとに―」


 次はロミオが俺の言葉を切り口を開いた。


 「ううん、違うよ!ありがとう……そんな優しい言葉をかけてもらったのは、初めてで、すごく……嬉しい……。僕の方こそ……こんな僕だけど、その……友達になってくれると……嬉しいです」

 

 そういってはにかんだ笑顔を見せた。


 「あたりまえだろ、これからもよろしくな、ロミオ」


 俺はロミオの前に手を出し、握手を求めた。


 「うん、よろしくね、ユーリ」


 ロミオも俺の握手に応えてギュッと握り返してくれた。


 「それじゃあ、また教室でな」


 「うん」


 ニッコリとロミオから笑顔が見えた。

 そしてロミオは俺を背に教室の方へ歩いていった。

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