第28話 侯爵令嬢クラウディア⑭


「……そうだな。咎などないのに一方的に理不尽な目に遭わさたのだ。文句の一つや二つ、言いたいこともあるだろう」

「ありがとうございます。では、オルランド殿下とソニア嬢に二つの質問をさせていただきたいのです」

「文句ではなく、質問なのか?」

「はい。その質問にお二人ががどのように答えるか。それによって、更にわたくしが告げることが……少々増えますが」

「……いいだろう。ただ、オルランドがまともな返答をするとは思えないが……」


 陛下が頷かれ、ミゲル第二王子殿下も同じく頷かれて。


 衛兵に拘束されたままのオルランド殿下とソニア嬢を見る。

 不審げな、二人の顔。


「では、お尋ねします。お二人は『ニホン』という国をご存じですか?」


 不審げな顔が、劇的に変わった。


「お、おまえっ! なぜそれを!」

「やっぱりアンタ、日本人転生者ね! ワザと『原作』を崩壊させたんでしょう! 酷いっ! この世界はあたしとオルランドの愛の世界なのに!」


 ぎゃあぎゃあと二人が騒ぐけど無視だ。


 わたくしが、日本人転生者で、『原作』の記憶があるなんて言いたいわけじゃない。

 それじゃあ、わたくしまで狂人扱いされるでしょ。


 騒ぐ二人があまりにうるさかったのか、陛下が衛兵たちに「口を塞げ」と命じた。


 ありがとうございます陛下。これで二つ目の質問が告げられます。

 わたしは口を開いた。


「では、もう一つの質問です」


 激昂している二人にも通じるように、一字一句はっきりと、ゆっくりと告げる。


「『原作』のオルランド王太子殿下とソニア嬢は『ニホン』という国の記憶を有しておりますか?」


 オルランド王太子殿下とソニア嬢の動きがぴたりと止まった。

 わたくしのことはを反芻でもしているのか、目が泳いでいく。


「『原作』の二人には当然『ニホン』という国の記憶はない。ですが、あなた方二人は『ニホン』の記憶をお持ちですよね。既に、その時点で『原作』から大きく乖離しているのですよ」


 更に告げる。


「あなた方は『原作』の登場人物ではない。ここは物語の世界ではない。『原作』ではない」


 断言する。重々しく。染み入るがごとく。


「敢えて言うのなら、『原作』と似て非なる世界。数多くある並行世界のうちの一つ。別の次元。別の空間。故に、名前と立場が似通っていようとも、ここは『原作』ではない。わたくしを排除したところで、お二人がしあわせになる結末はない」


 神の啓示のように。

 悪役令嬢のように。

 お前たちにしあわせはないと言い切ってやる。


「あ……」

「『原作』じゃ……、ない……」


 崩れ落ちたオルランド殿下とソニア嬢。


 わたくしは更に告げた。


「『原作』の心清らかなオルランドとソニア。その二人が無理やりに誰かを『悪役令嬢』に配するような策略を講じますか? 誰かに『悪役』を押し付ける者に、正当性があると言えるのですか?」


 お前たちの心は清らかなんかじゃない。

『原作』のオルランド王太子殿下とソニア嬢のように、皆から認められるほどの美しい心なんて持っていない。


「『原作』と異なるのは、わたくしじゃない。

 あなたたち、二人が、『原作』から乖離しているの」


 理解が出来たのか、オルランド王太子殿下とソニア嬢は、がっくりとうなだれたまま、身動きもしなかった。



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