第8話・「どうして、異世界の言語が現世界から来た者と言葉が通じるの?」「それはね、女神とか神さまが……」

 村外れの水車小屋の中で、全身に包帯を巻いた三馬鹿ミイラが、またカルマに対する悪巧みをしていた。


 包帯姿にサングラスをした男が言った。

「祭りの線香打ち上げ花火の火球が落下してきた時には、もうダメかと思ったけれど……よく、低温火傷で助かったな」


 包帯姿に、縦ロールの金髪ウィッグをかぶった女が言った。

「火球が落下してきた瞬間──巨大な水滴に、わたくしたち三人が包まれましたわね……アレは、あなたの力ですの?」


 包帯姿に、片目アイパッチをした男が首を横に振る。

「オレは知らないぞ……てっきり、他の二人の能力だと」

「わたくしは、知りませんわよ?」

「オレも知らないぞ……あの水滴は何だったんだ?」


 無言で考え込む三馬鹿──やがて、サングラス男が口を開く。

「もしかしたら賽河 カルマが、こっそり助けてくれたんじゃねぇ?」

 アイパッチ男が首をかしげる。

「なんのために? オレたち賽河 カルマに報復ザマァを企んでいる、どうしょうもないクズ人間だぞ……そのオレたちを、どうして助ける必要がある?」


「おまえ、自分でクズ人間って言っていて悲しくならないか……考えてみろ、賽河 カルマって相手が反撃してこない、徹底したザマァを仕掛けてこないよな」


 縦ロール金髪女が言った。

「確かに……詰めが甘いですわね……普通のザマァなら、反撃を恐れてザマァする相手の身内から一族に至るまで……徹底的に潰しますわね」


 賽河 カルマは胸糞悪いザマァを、相手に一度もしない……反撃される可能性があっても。


「相当にしつこい、不燃物にもリサイクルにもならない最低のヤツにはカルマでも、最強のザマァでお返しするらしいが……なんで、胸糞悪いザマァを賽河 カルマは普段はしない?」


「それは……なんでだろう?」

 腕組みをして考える三馬鹿のミイラ。

 やがて、結論が出た。

「もしかして、オレたちがカルマを激怒させて、胸糞悪いザマァをされれば……なんとなく理由がわかるんじゃないか?」

「なるほど……自分たちが胸糞悪いザマァされてみれば、一番良くわかるな」


 はっきり言って、この三人は正真正銘の三馬鹿だった。

「よし、今度は三人一緒にカルマに報復ザマァをして、賽河 カルマから『胸糞悪いザマァ』を受けてみようじゃないか」


  ◆◆◆◆◆◆


 賽河 カルマは、リンネの家でお茶を飲みながら、優雅なティータイムを満喫していた。

 カルマが召喚転生した異世界は、江戸時代の長崎出島のように、現世界や異世界の文化が混在していた。


 リンネがカルマに質問する。

「そう言えば前から疑問だったんだけれど……どうして、異世界の言語が現世界から来た者と会話が成り立つの?」

 お茶を飲み終わったカルマが、竹楊枝ようじに刺したヨーカンを食べながら言った。

「知りたいの? たいしたコトじゃないけれど……あたしには、異世界人の言葉が、有名声優の吹き替えで聞こえている」

 驚くリンネ。

「え──────ッ! あたしの声、吹き替えされているの⁉ じゃあ、あたしが聞いているカルマの声も?」

「たぶん、吹き替え……それか、転生とか転移した時に、神サマとか女神がサービスのオプションで、異世界人の言葉の意味だけをテレパシーで脳が直接、受け取れるようになっているパターンもある」


「それって、言葉の意味だけが、頭の中に流れ込んできて理解するのって気持ち悪くない?」

「たぶん、気持ち悪いと思う」


  ◇◇◇◇◇◇


 その時──リンネの小屋の外から、三馬鹿の怒鳴る声が聞こえてきた。

「出てこいや! 賽河 カルマ!」

「オレたちに、臆したのか!」

「おぺぺぺぺぺぺッ……ヘタレのチキン女ですわ」


 カルマとリンネとインガが、小屋の外に出ると三体のミイラが立っていた。

 それを見て、呆れ顔のカルマ。

りない連中……大人しく田舎で、スローライフをしていれば良いものを」

「ほざけ! オレたちに田舎暮らしは合わない」


「こんな田舎、賽河 カルマを徹底的なザマァをして、二度と歯向かってこないようにしたら……とっとと、田舎から出ていってやる」

「おぺぺぺぺぺぺッ……こんな田舎、隕石でも落として壊滅させてやりますわ」


 カルマが顔の縫合線を触りながら、冷ややかな目で微笑する。

「ほぅ、徹底的なザマァで二度と歯向かってこないように……田舎に隕石落として壊滅させるだと……ほぅ、やってみろ先にターンさせてやるから」


 三馬鹿ミイラの先制ターン。

「おぺぺぺぺぺぺッ、現状変換チート……焼売を餃子に……ついでに妖獣隕石の引き寄せですわ」

「現世界から乗り物召喚! 幼稚園の園児が乗ったスクールバス!」

「ゲーム能力、ステータス異常! 脱げ賽河 カルマ! そしてオレの奴隷になってハーレムの一員になれ!」


 焼売弁当が、意味不明で餃子弁当に変わり。

 後に勇者や魔法使いや賢者に成長して、この世界を救うコトになる園児が乗ったスクールバスが現れ。

 カルマを脱がすための、簡易脱衣場が出現した。

 空を見上げて隕石を探すカルマ。


「田舎を壊滅させる、巨大な隕石はどこだ?」

「今、数億光年の彼方からこちらに妖獣隕石が向かっている最中ですわ……それなりに時間がかかりますわ」

「使えない呼び寄せチート能力……その力も奪っておくか」

 カルマのオッドアイが怪しい輝きを放つと、現状変換令嬢のもう一つの能力『邪神&魔獣呼び寄せチート』が、カルマに吸収されて消滅した。

「これで、隕石は消滅したぞ」

「酷いですわ」


 カルマに向って突っ込んできたスクールバスを、カルマは片手で止める。

 バスから降りてきた園児たちが、輝いた目でカルマを見る。

「ツギハギのお姉ちゃん凄い!」

「ヒーローガールみたい!」

「あたしも大きくなったら、お姉ちゃんみたいになりたい! ここはどこ?」


 カルマがリンネに言った。

「リンネ、バスの運転手と子供たちをお願い、子供たちがこの異世界で夢のジョブに就けるように……現世界を忘れるジュースを飲ませてあげて」

「はいな、さあみんなこっちに来て……美味しいジュースをあげるよ」

「わーい、ジュース! ジュース!」

 異世界にバスごと転移された園児たちは、ゾロゾロとリンネの小屋に入って行った。


  ◇◇◇◇◇◇


 簡易脱衣場を、冷ややかな目で眺めるカルマに、ゲーム召喚男が言った。

「さあ、そこに入ってオレのために裸に……」

 男の言葉が終わる前に、カルマの回し蹴りが男に決まる。

「んべっ!」

「女が好きでもない男の前で、簡単に裸になると思うな! あなたが女の裸を見ている時──女もあなたを見ているのです」


  ◇◇◇◇◇◇


 

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