【短編】異世界を救ったあなたはご褒美で女神様にたっぷり甘やかしてもらうASMR~外れスキル「10年の寿命と引き換えに10秒だけ無敵(※)になる能力」をもらったあなた~
菅田江にるえ
トラック1:外れ能力のおさらい
■効果音:ピチョンという波紋が広がっていく音
「もしもし……もしも~し! 勇者様……起きてくださーい。いつまで私の膝の上で寝てるんですか~!
そろそろ足が痺れてきたんですけど~!
「もう放っておいていいですか~!
ってわけにもいきませんよね……ここ私の仕事場ですし」
「……本当に起きませんね。
あっそう言えば、電話越しにもしもしって言う人いませんよね。
まあ、私は人じゃなくて女神なんですけど! なんつって! キャハハ!」
「えー……こほん、私は女神です。世界を救った勇者よ。
あなたはその代償で死んでしまったので、こうして『祝福』を」
「えっ、いまさら取り繕っても遅い……?
ちょっと、なんのことかわかりませんね。私は崇高で高貴なる女神なので」
「下品な高笑いをしていた……?
さあ? 『元の世界』の夢でも見ていたんじゃないですか?」
「そう、『元の世界』です。
あなたが元々住んでいた『現代』ではなく、転生した『異世界』のほうと言えば、わかりやすいでしょうか」
「もう『元の世界』がどちらを指すのやら、ですね。
うふふっ、あなたは『異世界』にとっても馴染んでいましたから」
あんなに馴染んでたのに、死んでしまうなんて。なんて……」
「くっ……ふふっ、ふふふっ……。
ああ、いえ泣いていただけです。笑ってませんけど」
「すみません……。
あなたは世界を救った代償で死んでしまったというのに。
軽々しく『異世界』の話をしてしまいましたね」
「……べつに気にしてない?
はあ、そうですか。女神である私の前で強がらなくてもいいんですよ」
「そう、あなたは外れスキル『10年の寿命と引き換えに10秒だけ無敵(※)になる能力』でよく戦いました。
はっきり言って、あなたが『※の注釈を読むタイプ』とは思いませんでしたよ」
「注釈の内容をおさらい、ですか?
※無敵とは……
・この時間のあいだ、あなたは一切の攻撃でダメージを負わず、ライフが0になっても行動できる。
・あなたのステータスも上昇する。例えば、攻撃力は現在の攻撃力のおよそ10倍となる。」
「このおさらい、聞いてて気持ちいいですか?
え? 新ジャンル『効果テキストASMR』が流行るかも?」
「すみません。今度はマジで何言ってるか理解できないんですけど……。
はあ、『現代』では効果テキストとか読むのが好きだった?
だから――『ルールの穴を突くのも得意だった』と」
「なるほど、合点がいきました。
あなたがいきなり、初期レベルの状態で序盤から行ける――いわゆる初見殺しの後半のダンジョンに突っこんだ時は、
『こいつ、外れスキルだと気づいてやけになったのか』と内心笑っ……てはいませんでしたが」
「その時点で絶対に倒せないはずの『ダークドラゴン』を~(中略)コンボで撃破してしまうとは、驚きました」
「その後、あなたは魅力的な旅の仲間にも恵まれ、パーティを組み。
見事、『異世界』を救ってのけてしまいましたね」
「ただし――『すべてを無に帰す混沌より生まれし魔王~その正体は心の闇の集合体であり、倒しても数年後に復活とかするやつ』
略して『魔王』との戦いで寿命を使い果たしてしまい、こうして死んでしまったのですが。
まさか、あなたが残りの全寿命と引き換えに『重ねがけ』をするとは……」
「もうヒロインちゃんなんて、めっちゃ泣いてましたよ。
はい、あなたが最初に救った元奴隷の……獣人族のあの子です。
たしか名前は……なんでしたっけ、ええと」
「で、ですので……。
せめてもの慰めに、私があなたを癒してあげようというわけです。
いえ、決して興味がないから覚えてないわけではありませんけど?」
(トラック1・了、つづく)
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