第15話 箸が止まらない

 京香きょうかのマウントはトイレや個室に入ると効果が消えることが判明した。そしてどうやら、ある程度接近したら効果が発動するらしく、近距離になるほど強力になる。まだ完全ではなかったので意識を失うことなく正常に戻った。凛虎りんこが弁明する。


「なんですかさっきのは!! 違いますよ!! 今日初めてです!! 目覚まし時計が壊れててッ。時間がないってなって!! 慌てて出勤したから忘れただけです!! でも朝のシャワーは必須で!!」


 有栖ありすが言う。


「面白い設定だな」

「設定ってなんですかァ!?」


「まあ筋は通ってるな」

「普通携帯のスヌーズ使うやろ」


「違うんです!! 目覚まし時計を使うのが朝のルーティンなんです!! 私の!!」


 二人とドローンなるせは装甲ワゴン車にそそくさと乗り込もうとしていた。彼等は焼き肉を忘れない。運転手は上翔かみしょう課長であった。なんでも課で所有している。実体の鳴瀬なるせは既に店の中で準備していた。


「あっ!! 待ってくださいよ!!」


 ワゴン車に乗り込むと走行する。早々と有栖ありすは眠りにつく。凛虎りんこがそれを見ていると鳴瀬ドローンが言う。


「どうやらマウントは引き継いだは良いが、体に相当負荷がかかるらしい。少し休ませてやってくれ」

「そんな……まだ未熟で全然使いこなせてないんですね。私のせいで……あ、私が強くなれば解決です!!」

「それ起きてる時に言うなよ。めんどいから」


「それより買わんくてええん」

「あ!! 上翔かみしょう課長。ろしてくださいっ。買いたい物があるので。それと近いので先に行っててください。歩いていける距離なので!!」


「じゃあ先に行って準備してるよ。真仮まかり君が主役なんだから事故にはくれぐれも気を付けてね」


 一時的に別れる。下着を装備して高級焼き肉店に向かう。店員に案内されると凛虎りんこは驚いた。すでにみなが焼肉を食べていたからだ。有栖ありすが復活し、活気にあふれていた。このために休んでいたのかもしれない。


「うめーよこれ。幾ら食べても飽きねェ。おい、それは俺のだ」

「は? 俺が焼いたやつだろ。ちょ盗るんじゃねェ咲草!!」


 咲草さくは無言で上品に焼き肉を食べていた。


「ああああ!!! 良いけどああぁああ!!」

「おっ。遅かったな真仮まかり。待ってたぜ。おっと歓迎ふぇっーい」

「絶対に待ってない!!!」


「止めたんだけどねぇ……」


 一度食べて歯止めが効かなくなったのか、課長も焼肉を口に運んでいた。有栖ありすが遠い目をして少し寂しそうに言う。


「……昔はな。皆が集まるのを待ってから食うって文化があったんだが……害獣に全部奪われちまった……だから俺は取り戻すために戦ってるんだよォ。奴等とな……」

「許せねぇよ害獣!! 許せねぇ!!」

「せやなー」


「嘘ですよ!! 前の前の課では待っててくれてましたよ!! あと害獣絶対に許せませんね!!」


 喋りながらもモクモクと焼き肉を口に運ぶ。喋っている間に減っていく。凛虎りんこはまだ一口も食べてない。


「私も食べます!!」


 こうして参戦し、焼き肉を食べまくる。


 凛虎りんこは食べていると有栖ありすが言う。


真仮まかり。鎧の時、若干動きが遅くなってるし、ぎこちない。常備着けたままにするか相手によって身に着けるのか今のうちに考えとけよ。自慢のスピードを上手く使え」

「なるほどですね……」


 凛虎りんこは納得すると焼肉を口に入れる。もぐもぐと口を動かす。話と一緒に呑み込む。たわいのない雑談やアドバイスなどが飛び交い。歓迎会は賑やかに始まり、終わるのであった。



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