劣等勇者は風向くままに
角々三角形
第一章 異なる世界に落ちし者
プロローグ 『月下、流星の様に』
……俺は、そのビュウビュウという大きな音のせいで目を覚ました。
不快な音だ。
ホラーゲームのBGMの様に、聞いていると本能的な恐怖を覚える音。
……何だよこの音。
夜中に何だってこんな音を立てるんだ。
静かにしろよな……
文句言ってやる。
そう考えながら、上体を起こすため、ベッドにつこうとした手が――空を切った。
……え?
明らかな異常を感じた俺は、重い瞼を無理やり開いた。
「………」
真っ暗だ。
何も見えない。
瞼を擦ろうと手を動かすと、謎の力に押され、手がふっと上へ持っていかれた。
何だ、これ。
何なんだ。
徐々に暗闇に目が慣れ、くっきりとし始めた視界に映ったのは――
雲一つ無い、夜空だった。
「……は?」
あまりにも理解不能な状況に、緩慢としていた脳が一気に覚醒するのを感じた。
直後、自分の全身を何かが強く打つ感覚に気がつく。
まるで大きな掌に全身が押されている様な、何とも言い難い浮遊感。
これって、まさか……!
「う、うわあああああああ!?!?!?」
現状を認識した直後、ひとりでに喉から絶叫が迸る。
――俺は、空中を落下していた。
「な、ななな、なんだよ、こ、これーーーーーーーー!?!?」
脳内に、命の危機を知らせる警鐘が鳴り響く。
何でこんなことに!?
たったさっきまで寝てたはずだろ!?
何で、何で!?
......ち、違う!
今はそんな事を考えてる場合じゃない!
この状況を何とかしないと!
こんな高さから何もせずに落ちたら、確実に死ぬ!
どこかで見たことがあったはずだ。
高所から落下するとき、命を守るためにすべきこと、すべきこと、すべきこと――
「あ、頭の保護!!」
そうだ!
何が何でも頭を守らないと――っ!
俺は風に揉まれる両腕を必死で動かして頭を覆い、ぎゅっと体を縮め、目を閉じた。
直後、内蔵が全て零れ落ちるんじゃないかと思える程の凄まじい衝撃が体に走った。
「ごぼ……っ!!」
そして、それを受け止めきれなかった体の中の何かが軋み、弾け、砕けたのを感じ――
俺は、完全に意識を失った。
〜謎の男視点〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「失礼します、アルメハーデン陛下。お耳に入れたいことが」
そう言いながら駆け込んできた、ディルク・フルムーン――聖龍騎士団副団長を見て、儂は心の中で溜息をついた。
ディルクの顔に、ここ数日の忙しさの原因である、二十年振りに召喚者達がやってきた時と同等の動揺が浮かんでいたからだ。
また厄介事か……
「……何だ」
書類の整理をしていた手を止め、続きを促す。
ディルクは、数秒、顎に手をやりながら沈黙した後、
「……不審な人物が、上空より、中央庭園の池へ落下したのですが、どうすべきでしょうか」
そう、文字通り意味不明な問いを発した。
「……落下だと?」
あまりにも突拍子のない報告に、儂は眉がピクリと動いたのを感じた。
「……それは、飛行魔法の使い手ということか?」
それならば、確かに大事だ。
空を飛べる程の卓越した技術を持つ魔術師……恐らく、刺客だろう。
ここに騎士であるディルクが来ている事実や、彼の態度を見るに、既に無力化は済んでいる様だが。
……しかし、それならば、わざわざ処遇を聞かずとも、拷問し、出来る限りの情報を吐かせた後に殺せばよかろう。
刺客への対処を終えた報告なら分かるが、一体なぜ、その処遇を儂に問う必要があるのか。
「いえ、違うようです。魔力反応はなく……どうやら、本当に、ただ落ちてきただけのようで」
その言葉を聞き、思考にふけっていた儂は固まった。
「......何だと?」
「相当な高さからの落下だった様で、重傷を負っていました。……現在、最低限の治療を施し、我ら騎士団の拘束下に置いています」
「……つまり、空から不審人物が王宮内の池に落下、原因も動機も不明……重症であるその人物の処遇をどうすべきか、ということか?」
「そうです」
儂は玉座に背をもたれ、眉間を指で揉んだ。
何故、そんなことになるのか。
何がどうして、それほど高く空へ吹き飛び、よりによってここに落ちてくるのか。
他国からの攻撃行為……いや、魔法による干渉がなく、その上に落下者当人が致命傷を負っていたというのなら、その可能性は限りなく低いだろう。
各国の王達はこんな失態を犯すほど阿呆では無い。
……となると、一番高いのは個人に雇われた刺客である可能性だ。
「……拘束し、尋問した後に殺せ」
数十秒考えた後、儂はそう命令を下した。
正確な所は分からんが……不安要素は潰すのが一番だ。
原因が何であろうと、王宮への侵入行為に当たっているのは間違いない。
ならば、厳正に罰を下すのみだ。
「承知致しました」
ディルクは一礼をし、部屋を出ていった。
――夜の空を切り裂き、落ちてきた一つの命。
その命が、数多の者の運命を変え、いずれ世界を揺るがすことになるなど、この時はまだ、誰も知る由もなかった。
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