現代ダンジョンの主様〜ダンジョンを運営することになりましたが人類の敵として命を狙われることになりそうです〜

座頭海月

第1話 ダンジョン誕生(1)


 地球にダンジョンが出現してから、50年の歳月が流れた。


 最初は、誰も信じなかった。


 フィクション、幻覚、夢、陰謀論…いろいろな方法でその建造物達は否定された。


 だが、現実はそんな彼らを置いていくように、急速に変化していった。


 巨大な洞窟や塔、謎めいた構造物が突如として出現し、人類は新たな現実に直面する。


 アポカリプス、ノストラダムスの大予言、人類滅亡論などがニュースなどで当たり前のように話題になった。


 世界中が大混乱に陥ったのだった。


 だが、時が経つにつれ、社会は急速に変わり、探索者と呼ばれる職業が一般に広まった。


 ダンジョンは、世界を崩壊に導くものではなく、世界を発展させるものだったからだ。


 肉体的な成長、異能力、モンスターから入手できる魔石というエネルギー、科学では再現不可能の魔導具等々。


 そうしてダンジョンに潜ることが一般的なり、戦闘能力は最も重要な社会的なステータスとなった。学校に探索者クラスができたり、探索者の為の学校なんてものも生まれた。


 そんな世界に生まれた『山田悠真』は、16歳の少年だった。


 普通の家庭に育ち、普通の学校に通い、普通の友達と遊び、普通の未来を夢見ていた。だが、そんな普通な少年山田には、探索者の才能だけが欠如していた。


 彼には何の特別な能力もなかったのだ。


 探索者を夢見ていた山田にとって、その真実に気がついたとき、どれほどショックだっただろうか。


 だが、現実は厳しい。


 山田は当然のように探索者クラスのない普通の学校へと進学し、どこにでもいるような男子高校生へとなった。


 そんなある日のことだった。


 夕暮れが近づき、空がオレンジ色に染まる頃、山田は自宅の庭でくつろいでいた。


 何気なく、彼は庭の土を眺めていた。


 男子高校生によくある、黄昏ている自分を演出し、少し満足げだった山田は、その瞬間、微かな振動を感じ取った。最初は気のせいかと思ったが、次第に地面が揺れ始める。


「じ、地震か!?」


 山田が焦りながら立ち上がると、突然、庭の土がひび割れ出した。大きなひび割れが地面を走り、やがて一本の縦の裂け目が現れた。それはまるで、誰かが地面を割ったかのような裂け方だった。


 山田は驚きと恐怖で顔を歪ませながら、その裂け目に目を向けた。


 裂け目の奥は真っ黒だった。

 黒というより、光を完全に飲み込む“穴”。覗き込んでも何も見えないのに、その向こう側に何かが蠢いている気配だけがはっきりと伝わってくる。


「……まさか、ダンジョン?」


 ニュースやネットの配信でしか見たことのない光景。


 別次元につながる穴。それがダンジョンの入り口である。


 普通なら、すぐに役所に通報するべきだ。しかし、山田の胸は妙に高鳴っていた。


 才能がなかったからこそ、憧れだけは誰よりも強かったのだ。


 そして今、その憧れが自分の庭に現れている。


 ほんの一歩、裂け目に近づく。それは、間違えだった。


 途端に、足元の地面が崩れた。


 穴は、未だ広がっていたのだ。それに、ダンジョンに気を取られていた山田は気が付かなかった。


「嘘っだろっ!?」


 何かをつかもうと手を伸ばすが、その手は空を切る。


 そうして、山田の視界はそのまま闇に包まれる。体は確かに落ちているのに、風もない。重力さえ消えたような、不思議な感覚。


 次の瞬間、靴の裏に硬い感触が戻った。


「おわっ…!?危な…」


 転びそうになるが、どうにかバランスを取り耐え周囲を見渡す。


 目の前に広がるのは、岩肌の洞窟だった。天井には青白く光る鉱石が点在し、奥からは水音が響く。だが、最も異様なのは——こちらをじっと見つめる無数の目だった。


 影の中から、狼のような影が形になった獣、巨大な尻尾を持った狐、そして巨大な竜が姿を現す。


「ッ────」


 あまりのプレッシャーに、山田は無意識に一歩後ろへと下がった。


 敵意はなくとも、死を直感する。


 気絶しなかっただけでも十分だろう。竜というのは、人間との『格』が違うのだから。


 だが普通なら襲いかかってくるはずの彼らは一歩も動かない。しかも、山田を取り囲み、頭を垂れた。


「……え?」


 すると、一番近くにいた狼が山田へと近づき、首元に吊るされた小さな宝石を差し出す。


 それは暗いダンジョンの中でも眩い光を放ち、まるで受け取れと言っているようであった。


 恐る恐る触れた瞬間——脳内に直接、声が響く。


《契約成立。あなたはこのダンジョンの主となりました。よろしくお願いいたします。マスター》


「……は?」


 意味を理解する前に、視界がぐにゃりと歪む。頭の中に、洞窟全体の構造が流れ込んできた。通路の形、隠し部屋の位置、モンスターの数や位置までもが、鮮明にわかる。


 さらに奇妙なことに、少し意識を向けるだけで、狼型モンスターが体を動かした。まるで自分の手足のように。


 山田は息を呑む。


 ——これは、夢じゃない。




















「俺は……モンスター側になったのか?」

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