第3話 お風呂①

…お風呂!?


…まずい。どうにかしないと…!


何かいい案はないかと、食事の準備をしながら考えるも、結局。


「レウスさん、お風呂の準備、出来ましたよー!」


いい案が出ないまま、タイムリミットを迎える。


「この体、魔法が使えなかったので、すりごき式で火を起こさせて貰ったのですが…凄かったですよ!凄い力で、あっという間に火がついちゃって…」


「それで…お風呂、先に入りますか?」


「私は、後にしておくよ」


ただの時間稼ぎに過ぎない。

今はまだ、覚悟ができていない。


その返答を聞いて、ミアは風呂へと向かっていく。


その背中を見送りながら、私は焚き火のそばに座り、干し肉を取り出す。


いつも通り、かぶりつこうとするのだが。


…パク。


「ぐぐ…」


…固い。噛みきれない。

当然だ。今は、元の獅子獣人の肉体ではない。噛む力のない、少女の肉体なのだ。


はむ…はむ…

仕方なく、何回も噛んで、柔らかくしてから食べることにする。


いつもより時間が掛かってしまって、その分食べる量も少なるはず…なのだが。

それでも、満腹になってしまう。


…胃の容量も違うから、すぐお腹いっぱいになるんだな。


そんなことを考えている内に。


「上がりましたよー」


ミアが風呂から戻ってくる。


体から湯気をのぼらせながら、布で体を拭いている。


「…ごめんミアさん。今日はやっぱりお風呂入らないってことに…出来ないかな?」


「駄目です!お風呂入らないと汚いので!」


「いやでも、ミアさんも…嫌でしょ?」


「そこは…お互い様じゃないですか。私だって、少しは見えちゃいましたし…それに、レウスさんがそんなことする人じゃないって、分かってますから」


「…いや、でも…」


「ほら、行った行った!別に私は気にしないですから、ちゃんと綺麗にしてきなさい!」


背中を、ポンと押され、前へ押し出される。


逆らえる程のパワーもなかったため、渋々お風呂のある場所へと移動していく。


30秒ほど歩くと、到着する。


岩場にポツン、とドラム缶が置いてある。

ドラム缶に掛かっている蓋を外すと、お湯が溜まっており、ここが風呂場だと確信する。


…覚悟を決めよう。

心を無にするんだ…心を…無に…


上から服を脱いで行く。デザイン重視の服であるためか、そこかしこにボタンがつけられており、脱ぐのに多少時間がかかる。


その下に。胸を覆っている…ブラジャーを発見する。

…ダメだ!一旦…ここは後回しにしよう…!


目をギュッと瞑りながら靴下やスカートを下ろす。夜風が体に当たって冷えるのを感じる。これも…元の体では無かった経験だ。


前々から気になってはいたのだが…人の体は毛皮に覆われていない分、感覚が鋭い。

良くこれほど敏感で生活していけるのだな…と素直に人の生体に感心してしまう。


いや、今は感心している状況じゃないだろ…!

今、私は下着しか付けていない状態なんだ。

あんまり、この状態で長引かせるのも良くない。


一気に済ませてしまおう。


「…うおおおおお!」


プチッ!バサッ…シュッ…スーッ…


…ザブン!


「ふーっ…」


なんとか勢いで済ませ、風呂に入るところまでは辿り着けた。


緊張と共に、力がほぐれていく。


体を見ていけない。その確固たる意思で前を向いていたのだが…


…ドポン!


「…!?」


胸の辺りが、急激に軽くなる。


…ああ、これは、「アレ」が浮いているのか…と感覚的に理解する。理解してしまう。


視界に収めないように、ギュッと目を瞑る。


…97…98…99…100。


そのまま頭の中で100秒を数え、風呂から上がる。

あらかじめ持ってきていた布と石鹸を取り出し、


次は…体を洗う。

確実に…体を見なければならない場面が生じてくるだろう。


覚悟を決めろ、私…!!




⚪︎レウス(獅子王レウス)

・32歳。雄の獅子獣人。ミアと肉体が入れ替わってしまい、人間の女性の体であること、元々の自分の肉体に好意を抱いていることに困惑している。


⚪︎ミア

・18歳。人間の女性。難討伐の中で、スキル『精神交換』を使用してレウスと肉体を入れ替える。周りからは才能がある、元気な魔法少女だと思われている。



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