株式会社スローライフ誕生記 〜ナマケモノ、会社を作る〜【癒し】

ほねなぴ

[第1もふ]スローライフ誕生秘話

ジャングルの朝は、いつだって遅い。

太陽は高く昇っても、私たちは木の上でまどろんでいる。

――だけど、その日だけは違った。

私の胸の奥で、妙なざわめきがしていた。

「……このままじゃ、置いていかれる。」

ジャングルはのんびりしているようで、意外と厳しい。

速い者は食べ物を先に確保し、遅い者は腹を空かせるか、餌になるか。

私たちナマケモノは、ゆるさだけが武器。

でもそれは同時に、滅びへの道でもあった。

そこで、私は決めた。

「ジャングルを出よう。人間の世界に行こう。」

最初に賛成したのはケモ男。

おっとりしているが芯があり、人間の学校に入り経済学まで学んだ。

次に同行したのはケモジ。

寡黙で、針仕事に異常な集中力を持ち、服やぬいぐるみを作って売っていた。

三匹で人間社会に飛び込んだ――が、すぐ分かった。

人間の世界は、速い。

秒単位で返事を求められ、会議は時計と競争する。

どこの会社も、私たちを長く置いてはくれなかった。

ある日、私はとうとうお金も食べ物も尽きかけ、道端のベンチでぐったりしていた。

ポケットに残った硬貨を数えると、保証金と少しの前払いなら払える。

そして、不動産屋で契約した。

古びたマンションの一角、六畳一間。

ここで暮らすことに決め、ケモ男とケモジを呼び寄せた。

――速さを武器にできないなら、ゆるさで勝負するしかない。

「ナマケモノのナマケモノによる、ナマケモノのための会社を作らない?」

ケモ男は笑い、ケモジは黙ってうなずいた。

社名はすぐ決まった。

株式会社スローライフ。

朝はゆっくり始まり、納期は長く、昼寝は必須。

製品もサービスも、一つひとつ時間と愛情をかける。

こうして私たちは、人間社会の片隅で、のんびりと根を張った。

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