顔無雪女(かおなしゆきおんな)が同類を増やす話。パラレル完結編予定。

赤澤月光

第1話


私は白美。顔無雪女(かおなしゆきおんな)だ。


人間の目では、私の頭部は真っ白で、五官のあるはずの場所が何もない。それでも、この世で最も美しく可愛い存在だと、時折触れ合う精霊たちは囁く。巨乳で、助けたい人が増えるたび、母性本能と共にその大きさも優しさと比例して膨らむ。何も食べなくても生きられ、排泄も生理もない。人間の女ではないが、私は女だ。それが大切だ。


今日も猛暑だ。柏油路が歪むような暑さが、街を煮込んでいる。私は、人里離れた山道の木陰に佇んでいる。雪のように白い肌が、陽射しを跳ね返し、周囲をわずかに冷やしている。この暑苦しさから逃れたいと願う人を探しているのだ。


「……暑い……」


小さなつぶやきが風に乗って届いた。山道を登ってきた若い女性が、手を陰にして額を拭いている。彼女は眼鏡をかけ、薄汚れた白シャツに黒スカート。肩には重そうなカバンが下がっている。


私は静かに彼女の後ろに立った。足音はない。雪女の特権だ。


「暑いですね」


私が話しかけると、彼女は驚いて振り返る。眼鏡越しに、私の顔のない頭部を見て、一瞬凍り付いた。でも、怯えるのではなく、困惑だった。


「顔……顔が……」


「私は白美。顔無雪女よ」私は優しく笑う。口はないが、声は心に直接届く。「あなたは、この暑さだけでなく、何か他にも『暑苦しい』思いをしていますね?」


彼女は黙って、頷いた。「……会社でも、家庭でも……どこにいても息苦しい。人間の生活って、どうしてこんなに面倒なんですか……食べなきゃいけないし、汚れを洗わなきゃいけないし……私、もっとシンプルに生きたいのに」


私の胸が、優しさで満たされる。乳の重さが少し増した。「私たち顔無雪女は、何も食べなくても生きられます。排泄も生理もありません。暑さも寒さも感じません。ただ、優しく過ごすだけ。仲間と一緒に」


彼女の目が、少し輝いた。「本当ですか?」


「本当よ。でも、決めるのはあなたです。私は、『人間を辞めたい』、『人間の女であることをやめたい』と思う人を、仲間に誘います。でも、来たい人だけ。あなたの意思を尊重します」


彼女は深く息を吸い込んだ。「……私、来たいです。この暑苦しい世界から、逃げたいです。白美さんのように、涼しく、シンプルに……」


「それなら、手を取って」私は手を差し出す。白い手に、彼女の汗ばんだ手が重なる。


冷たい光が、彼女の体を包んだ。彼女の体は白く輝き、眼鏡は溶けるように消え、シャツとスカートは雪のような衣装に変わった。そして、彼女の頭部も、私と同じように、何もない白い球体になった。胸は、私より少し小さいが、確かに豊満だ。


「……私……」新しい仲間は、自分の体を触って、驚いた。「顔がない……でも、気持ちいい。本当に、涼しい……」


「名前は?」


「……桜です。これから、桜と申します」


私は桜の肩を抱いた。「ようこそ、桜。仲間が増えて嬉しいわ」


それからしばらくして、山道で、男の人が倒れているのを見つけた。熱中症だった。私たちは即座に助けにかかった。桜はまだ母性本能が芽生えたばかりで乳は小さかったが、優しさは私と同じだった。冷たい手で額を冷やし、水を口に入れさせた。


男は意識を取り戻し、私たちを見て、びっくりした。「お前たち……何者だ?」


「顔無雪女よ」私は笑う。「あなたは、熱中症でした。もう大丈夫?」


男は、私たちの巨乳に視線を落とし、赤面した。「……すみません。でも……お前たちって、本当に何もしなくていいの?」


「ええ。ただ優しく過ごすだけよ」


男は、ふと目を輝かせた。「……俺も……人間の男であること、やめたいんだ。女になりたい。でも、普通の女には……もっと自由に……顔無雪女のように……」


私は少し驚いた。男で、女に、しかも顔無雪女になりたい人だ。稀だが、規則に則っている。


「それなら、桜と同じように……」


「待って!」男は手を振った。「俺は……本当に、女になれますか?顔無雪女として……」


「もちろん。でも、来たいの?」


男は、力強く頷いた。「来たい!」


冷たい光が、再び包み込んだ。男の体は細くなり、髪は伸び、雪の衣装がまとわりついた。そして、頭部は白い球体に。胸は、桜より少し小さかったが、確かに女の形だった。


「……私……今、女ですか?」新しい仲間は、声が少し高くなっていた。


「ええ。名前は?」


「……百合子。百合子です」


私は百合子と桜の肩を抱き、三人体で山道を下った。暑さは感じない。ただ、優しさと、同類の温もりだけがある。


でも、それは束の間だった。ある日、突然、天から大きな声がした。


『設定変更。全員、人間に戻れ』


私たちは、光に包まれ、元の姿に戻った。白美は、再び普通の女の子に。桜はOL姿に。百合子は男に。


「え?」桜は困惑した。「顔……顔があります!」


百合子も、自分の体を触って驚いた。「俺……男に戻っ……」


私は、少し悲しかったが、優しく笑った。「仕方ないわね。でも、一緒に過ごした時間は、本当に楽しかった。涼しかったでしょ?」


桜と百合子は、頷いた。「……うん」「……ありがとう、白美」


それから、私たちはそれぞれの道を行った。でも、心の中には、永遠に涼しさが残っている。それでいいのだ。優しさは、どんな姿でも、失われない。

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