第七話 幸せな気分になるこうかって?
ティラノといっしょに恐竜図鑑を見てたらいつのまにかねむってしまったみたいで、目を覚ますとベッドの上にいた。
「いつのまにベッドへ移動したんだろう……」
昨日の夜はカレーを食べたあとに歯をみがいておふろに入って……。それから、部屋でティラノと恐竜図鑑を見ながらいろんな話をしたんだっけ。うーん、やっぱりベッドに移動したのは覚えてない。……って、もしかして!
「ティラノ!」
部屋を見わたすとティラノのすがたが見あたらない。これってお母さんが部屋にきて、ぼくがねてるあいだにティラノが動いてるのを見てしまったとか? そうだとしたら、どこかへもっていっちゃったのかも……。ティラノの正体を知られたら大変だ!
急いで一階へ走った。
リビングに入るとお母さんはソファにすわってテレビを見てる。
「お母さん! ティラノどうしたの!」
「あら、おはよう。ねむるときは、ちゃんと電気を消してベッドでねむらないとダメよ」
やっぱりお母さんが部屋にきて、ねてたぼくをベッドへ運んだんだ。じゃあやっぱりティラノは見つかった?
「そんなことより、ティラノをどこへやったの!」
「ティラノ? なんの話?」
「え?」
あれ? お母さんがもって行ったんじゃない?
「もしかして、このあいだポケットに入れていた恐竜のおもちゃのこと?」
「そ、そう! それ!」
「知らないわよ? 部屋のどこかに落ちてるんじゃないの?」
「そんな」
おかしい、部屋はよく見たけどいなかった。
「とにかくお母さんは知らないわよ。もう一度、よくさがしてごらんなさい。それより朝ごはんはどうするの? すぐに用意できるけど」
「い、いまそれどころじゃないんだ。あとにして!」
「はいはい、じゃあ食べたくなったら声かけてね」
返事をして急いで部屋にもどる。ドアを開けると、変な音が聞こえてきた。
「ん? なんだろう。これは、いびきのような……」
耳をすませて音の位置をさがすと、ベッドの下から聞こえてくる。そっと、のぞいて見るとスズメくらいの大きさの白い恐竜のホネがスヤスヤとねむってた。
「ティラノ!」
「ぐぁあああ。よくねむった。ん? 正人、そんなところからのぞいてなにをしているのだ?」
「ティラノこそ、なんでそんなところでねてるの? 見当たらないから心配したんだよ」
「昨日の夜、とつぜんドアをノックする音がしてな。急いでベッドの下にかくれたのだが、そのままねむってしまったようだ」
「そうだったんだ、びっくりしたよ。お母さんに見つかったのかと思っちゃった」
「それは悪いことをしたな。わたしは無事だから安心してくれ」
ティラノはゆっくりベッドのおくから出てくると、ぼくのかたに飛び乗った。
「さて、今日もだがしのこうかを調べるのだろう? よろしくたのむぞ正人」
「はぁ……。きりかえ早いなぁ。わかった、まかせてよ」
目が覚めたときはびっくりしたけど、ティラノになにもなくて本当によかった。
またみんなで大きな公園のある川原に集まることにした。しばらくするとカノちゃんが手をふりながら走ってくるすがたが目に入る。
「やっほー、二人ともまたせてごめんね」
「ううん、ぼくたちもさっき来たところだよ」
「そうなの? よかった。ティラノも元気してる?」
「うむ。カノはいつも元気だな」
「えへへ、それが一番のとりえかも?」
カノちゃんはティラノに向かってガッツポーズをしてる。本当にいつも元気だ。
「カノちゃん、昨日、集めただがしもってきてくれた?」
「もちろん! ほら、ここに入ってるわよ」
カノちゃんはふり向いてせなかのピンクのリュックをじまんげに見せた。そういえばカノちゃんのもち物ってほとんどピンクだ。そのうちスマホにもピンクのカバーをつけそう。
「それじゃあ、始めよう。カノちゃんもティラノもいい?」
「いいわ」
「うむ」
「だがし、どんなのがあったっけ?」
ぼくが聞くとカノちゃんはピンクのリュックを大きく広げてなかを見せてくれた。
「こうして見るとたくさんあるなぁ」
「全部で十七個あるわよ。一つは中身が半分しかないけど」
「なんで?」
「なんでって、みんなでおなかが空いたからって食べたでしょ」
「あ、ひよこボーロか」
「正人、ひよこボーロは、こうかがわかっているし問題はないだろう」
ポケットのなかで、もぞもぞと動くティラノが言った。
「だね。そうなると……」
いまあるなかで使ったことがないのはウマウマボウ、きっちゃんイカとよっぴーラムネ。ラムネはなんだかそうぞうがつくなぁ。ひよこボーロみたいに飛び道具になりそう。ウマウマボウも形と名前からしてデカチョコバーみたいにツルギとかになりそうだから……。
「まずは、きっちゃんイカを試してみよう!」
「りょうかいだ! わたしの口に入れてくれ」
「大きくならなくて、いいの?」
「このままで、いいだろう。正人の家をこわすことがないよう、念のために場所を変えただけだ」
ティラノは言うとポケットから地面に飛びおり、口を開いた。
「それじゃあ開けるね。って、カノちゃん?」
きっちゃんイカのふくろを開けるとすっぱいニオイがただよってきた。そういえばカノちゃんはこのニオイが苦手だから、いつのまにかぼくたちからはなれてこちらを見てる。あんなにはなれなくてもいいと思うんだけど……。
ティラノの口に一切れだけ放りこむ。
「うぉおおぉぉぉ?」
「ん?」
「ねぇえええ! なにか変わったぁあああ?」
カノちゃんがはなれたところから大きな声を上げる。いまのところなにも変化が起きてないように見えるから、両うでをバッテンのようにして見せた。ティラノは動かないでじっとしてる。
「ティラノ?」
「正人……、このだがしだが」
「なにかあった?」
「うまいな」
「え? それだけ?」
「うむ。これは食べることによって幸せな気持ちになるこうかがあるようだ」
ティラノはムシャムシャと口を動かしてだがしの味を楽しんでる。
「そ、それって、戦いのやくに立つかな?」
「なるわよ!」
耳元から、聞きなれた元気な声。
「カノちゃん?」
いつのまにかカノちゃんが、うしろに立ってる。とつぜんすぎてびっくりした。まるでワープだ。
「おいしいだけじゃやくに立つわけないし」
「そんなことないわよ。ティラノもそう思うでしょ?」
カノちゃん、ぜったいにいきおいだけで言ってる。ティラノが返事にこまってるし、話題を変えたほうがいいかも。
「ティラノ……。次のだがしを試してみよう」
「う、うむ。そうだな」
「なによ二人とも!」
「カノちゃん、ウマウマボウ出して!」
「むー!」
カノちゃんはフグのようにほほをふくらませると、ウマウマボウの中身をとり出し、はしのほうを少しわってからティラノの口に入れた。
「うぉおおお! この感覚は!」
ティラノは声を上げると、とつぜんその場をぐるぐると走り出した。少しずつスピードが速くなっていく。
「これって! もしかして走るのが速くなるこうか?」
「うむ! これはすごいぞ正人!」
すごいけど……。
「なんだか見てたら目が回ってきた」
「あたしも」
「ティラノ、ストップ、ストップ!」
ぼくの声にティラノは走るのをやめる。あぶなかった、もう少しで気持ち悪くなるところだった。カノちゃんの顔色がまっさおだ。
「カノちゃんだいじょうぶ?」
「なんかムリそう……」
カノちゃんはすっかり気持ち悪くなってしまったようだ。
「カノ、す、すまない」
「ティラノ、今度から走るときはまっすぐ走ってよ」
「う、うむ。りょうかいだ」
「それじゃあ、少し休んだら残りのだがしのこうかも調べよう」
「うむ。……?」
「ティラノ、どうかしたの?」
ティラノの様子が変だ。なんだかイヤな予感がする。
「正人、カノ、トリケラーの気配だ! 目覚めたぞ!」
「やっぱり! どうしよう、トリケラーは、だがし屋さんをねらってるんだよね? 急いで行かないと」
「うむ」
「ねぇ、いまから走って行ってもまに合わないんじゃない? トリケラーはワープであらわれるかもしれないのよ?」
たしかにカノちゃんの言う通りだ。こうして話してるあいだにもトリケラーは、だがし屋さんをおそってるかもしれない。
「カノ、おそらくトリケラーはワープを使わない。なぜならエネルギーをたくさん使ってしまうからだ」
「それって、トリケラーはティラノとの戦いも考えてるから、エネルギーをムダにしたくないってことよね」
「うむ。だからこそ、こちらはワープを使って先回りをする。こちらはだがしのチカラですぐにかいふくできるからな」
「ティラノ、カノちゃん、だがし屋さんへ急ごう!」
「よし! わたしは元のすがたにもどるぞ! ボーン!」
ティラノがさけぶと身体がぐんぐんと大きくなる。
「二人とも、わたしの手に」
ティラノのホネの指がぼくとカノちゃんの身体をやさしく包みこんだ。
「しっかりつかまっているのだぞ!」
「うん!」
「わかったわ!」
「ボーン! ワープ!」
まばたきをするまもなく、気がついたらだがし屋さんの前へ着いてた。ワープってすごすぎる!
ティラノの指がぼくの身体からはなれる。トリケラーのすがたは見当たらない、まに合ってよかった。
「ありがとうティラノ!」
「うわぁ、ワープって便利すぎない? これならねぼうしてもだいじょうぶね」
カノちゃんはワープに感動してるみたい。でも、この子にワープを使わせるのはあまりよくない気がする。
「そんな理由でワープを使うのはカノちゃんくらいだよ」
「ぜったいにみんな考えるわよ! って、それよりティラノにクッキーをあげないと!」
ワープを使ったからティラノはエネルギーをかなり使ってる。トリケラーがあらわれる前にかいふくをしておかないと。でも、ここで数のかぎられてるクッキーを使うのはもったいない。そうだ! いいアイデアを思いついたぞ!
「カノちゃん、そのクッキーちょっとまって!」
「え? なによ。急がないとトリケラー来ちゃうじゃない」
「うん。でもクッキーはまって。べつのだがしに変えよう。きっちゃんイカまだ残ってるよね?」
「あるけど……。これって、たいしたこうかがなかったんじゃないの?」
きっちゃんイカは、たしかに戦うことに関してはこうかがない。でも食べたら幸せな気分になったとティラノは言ってた。つまり……。
「きっちゃんイカはこうげきには向いてないけど、エネルギーのかいふくにはすぐれてると思うんだよ」
「なるほど。たしかにわたしは、それを食べたときに幸せな気持ちになっただけではなく、体力もかいふくしたように感じた」
ティラノはきっちゃんイカを食べた本人だし、すぐにわかったみたい。
「そっか! きっちゃんイカはかいふくアイテムになるのね!」
「そういうこと!」
「じゃあ、はい」
カノちゃんがきっちゃんイカを目の前に差し出すと、少しはなれた位置に下がった。そんなにきっちゃんイカのニオイが苦手なのかな……。
「ティラノ、口を開けて!」
残りのきっちゃんイカを全部ティラノの口のなかへ放りこむ。
「うーん、うまい! なんだか身体が軽くなってきたぞ。体力かいふくだ!」
ティラノがしっぽでバンバンと地面をたたく。元気が伝わってくる。
「おいしいものを食べると元気になるもんね」
「なんだか、あたしおなかが空いてきちゃった」
「だがしはあげないよ?」
「むー! わかってるわよ!」
「あはは」
川原では顔色が悪かったカノちゃんは、すっかり元気になったみたい。
「それにしても、トリケラー来ないわね?」
「たしかにおそいね」
「またねむっちゃったとか?」
「いや、気配はある」
ティラノはまじめな声で言った。
そうだ! トリケラーがあらわれないなら、いまのうちならだがしを買ってふやせる。小さいものなら十円くらいで買えるし、少しでも数は多いほうがいいに決まってる。
「ティラノ、少しだけだがし屋さんのなかへ行ってもいいかな? トリケラ―があらわれる前に、だがしの数をふやせればと思って」
「あたしも行っていい?」
「カノちゃん、自分が食べるぶんを買おうとしてるでしょ?」
「バレちゃった」
カノちゃんは気まずそうに、ほっぺを指でかいてる。でも、おなかが空いてたら、いざというときに動けないし、自分たちのぶんを買うのも悪くないかも。
「わたしはここでトリケラーがあらわれるのをまっている。だがしはたのんだぞ」
ティラノはガッツポーズをして見せる。まるでカノちゃんみたいだ。
「わかった。すぐにもどるからね。カノちゃん行こう!」
「うん!」
ぼくはカノちゃんの手を引いて、だがし屋さんのほうへ足を向けた。
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