第43話 エミリの魔法家電
「みなさんが帰ってしまわれて寂しいですね」
ロンヤードたちを送り出したあと、エミリはしょんぼりしていた。
だが、すぐに、
「あ、でも、魔王様たちがいらっしゃるので、毎日楽しいですけどね」
と魔王や魔物たちを振り返り言う。
そんなエミリに、じんと来た魔王はまた安請け合いをしてしまった。
「私も人間が少なくなって寂しいぞ。
そうだ。
景気付けに、またなにか作ってやろう。
お前は家電とかいうものを作るのにハマっていてたな」
エミリは、ははは……と苦笑いし、
「私は考えるだけで、作ってらっしゃるのは魔王様ですけどね」
と言う。
「そして、電気を使っていないので、家電じゃなくて、
語呂が悪いので。
魔法を電気のように使うものということで。
魔法家電と呼ぼうかなと思ったんですけど」
「そうか。
それはいい」
となにがいいのかわからないまま、魔王は言ってみた。
ともかく、エミリのご機嫌をとりたかったのだ。
彼女の笑っている顔が好きだからだ。
何百年、何千年と生きてきた気がするが。
微笑むエミリを見ていると、今まで感じたことがないほど、胸の奥がじんわり、ほっこりとする。
魔王としては牙を抜かれた状態なのかもしれないが。
そもそも自分は争いは嫌いだし。
誰かが上に立ってまとめねば、他の種族にやられるかもしれないと思って、魔王をやっているだけだし。
……まあ、そう考えれば、最初から自分に牙なんかなかったのかもしれないが。
だが、お前を守るためなら、ない牙でも磨いて尖らせるぞ、エミリ、と魔王はエミリのために覚悟を決めながら問うてみた。
「今、なにか作りたいものはあるか?」
「そうですねー。
あっ、脱衣場にコーヒー牛乳とかあるといいなーと思って」
「コーヒー牛乳?」
「いえまあ、中身はまたぼちぼち考えるとして。
とりあえず、自動販売機が欲しいかなって」
現代の知り合いがこの地にいたら、
いやそれ、家電じゃない……と呟いたことだろうが。
前の世界から来ているのは、今のところ、大阪城のゾウだけだった。
しかも、そのゾウの人もたくさんの小悪魔の中に混ざって、何処にいるのかさっぱりわからなかったので。
誰もなにもつっこんでは来なかった。
充分な嫁入り支度を整えてもらい、観念したアイーシャが向かった先には廃墟があった。
というか、つい最近、廃墟になったらしき王都があった。
みな逃げ出してしまったのか、誰もいない。
乾いた風が吹く石造りの街に、アイーシャとその一行は立ち尽くしていた。
我が国は今の王の外交政策が効いていて、わりと安泰だが。
他の中堅の国々は滅ぼし、滅ぼされ大変だと聞いてはいたが。
花嫁一行が到着するくらいまでは、滅びるの待っていてくれてもよかったのでは……。
まだ花婿も見ていないのに、離縁された気分だ、とアイーシャは思っていた。
いや、
そんなことを考えながら、アイーシャは供の者たちとともに、ぼんやり突っ立っていた。
砲撃にあったのか、壊れた噴水は変な感じに水を噴き出し、アイーシャの元まで、ぴしゃぴしゃ水を飛ばしてくる。
「どうしましょう、アイーシャ様」
そう心配そうな侍女に問われ、アイーシャはようやく正気に返った。
普段の状態より、正気に返った。
みなを振り返り、王女らしく言う。
「とりあえず、戻りましょう。
みんなが争いに巻き込まれなくてよかったわ」
ここには、いつもなんとかしてくれる重臣たちやセレスティアお姉様はいない。
自分がしっかりしなければ、と珍しく思ったのだ。
そのとき、鳥しか集まっていない壊れた噴水の向こうから白い馬に乗った金髪の王子っぽい人がやってきた。
……鼻筋の通ったすごいイケメン。
この人が私の夫……
なわけないか。
たぶん、夫は殺されたか。
私を置いて逃げたかのどちらかだろうから。
格好も、この辺りの王族の格好ではないわよね。
もっと西の方か北の方の国の人か……と思ったとき、その王子は馬上からアイーシャを見下ろし、言った。
「娘よ。
お前は何者だ」
廃墟となった街に立派なマントをなびかせた王子の声が
その立派な王子っぷりに、
この人が私の夫ならよかったんだが。
どうも、この国を滅ぼした方の王子っぽい、と思いながら、アイーシャは名乗るのを控えていた。
平民のフリをした方がいいだろうか。
いや、後ろに立派な輿もあるし、まあ、無理だろうな。
滅びた国に嫁いできた姫だと知られれば、殺されるかもしれないが……。
でもまあ、私には東洋の達人から習った護身術がある!
ただ、みんなを守れるほどの力はないけど……。
ああ、みんなにも習わせておくべきだったっ、
とアイーシャは供のものたちと王宮の広場で、掛け声も勇ましく、カンフーの稽古をするところを想像してみた。
だが、今更だ、と思ったとき、王子が、おや? という顔をして、アイーシャの腕を見た。
「娘よ。
その腕輪は……?」
ああ、とアイーシャは精巧な細工の金の腕輪を見る。
覚悟を決めて言った。
「これはわが国の王族の者のみがはめられる腕輪です」
なんとっ、と驚いた王子は、妙なことを言い出した。
「ということは、あの娘はお前の国の者なのか」
あの娘……?
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