第20話 畑作るとか、呑気だな


「畑を作ろうとしてたのか。

 その辺の獣でもとって食べた方が早いと思うが」


 待ってる間に、飢え死にするぞ、とエミリはルーカスに言われた。


「……獣さばけないし。

 トマトなら、さばけるけど」


「トマトさばくって……。

 いや、そもそも、お前、今、一口だったろ」

とルーカスと話している間、何故か横から、魔王がすごい形相で睨んできていた。


 ……なんでしょう。


 私、やってきて早々、なにかご無礼を働きましたでしょうか、と思いながら、エミリはルーカスに被害が及ばないよう、


「あっ、じゃあ、どうもありがとう、ルーカス」

と話を終わらせる。


「ああ、じゃあな。

 魔族のみなさんも、お元気で。


 なにか御用がありましたら、いつでもお申し付けください」

と言ってルーカスはさっさと去っていた。


「……帰ったな」


 去っていくルーカスを見送りながら、ホッとしたように魔王が言う。


 どうしたんですか、魔王様。


 何故、あなたほどのお方が、一介いっかいの商人などお気にかけておられるのですか。


「よし、では、トマトを持って帰るか。

 エミリ、それでケチャップとやらを作るのだろう?」


 そう魔王に言われ、

「いやー、トマトだけじゃ作れないし。

 作れても、ケチャップかけて食べるものがないんですけどねー」

とエミリは苦笑いする。


 とりあえず、魔王について城に戻った。




 その頃、魔王の城から戻ったマーレクは宮殿の隅にある神官専用の浴場で湯浴みをしていた。


 高位の神官ならば入れるこの風呂は、砂漠と岩の多いこの国でも、いつも温かく豊富な湯で満たされている。


 ――魔族の匂いが身体に染み付いている気がする。


 このままでは神殿に入れないからな。


 そう思いながら、ひとり湯に浸かっていると、

「マーレク」

おのが名を呼びながら、王女セレスティアがやってきた。


 いや、ここ、男風呂ーっ、と思うマーレクの慌てぶりなど一切気にせず、広い石の浴槽の端に立ち、セレスティアは言う。


「エミリが、なにかやらかしておらぬか心配でな」


「今送ってきたばかりですよ、セレスティア様……」


 だから、ゆっくりさせてください、と思いながら、マーレクは言う。


「いくらエミリでも、送ったその日に魔王に無礼を働いて、怒らせるとかない気がするのですが」


「そうか?

 あの娘、瞬時に、とんでもないことやらかしそうだぞ」


 ……では何故、王女として送り込みました?

と思ったのだが、まあ他に替えがきかなかったからだろう。


 アイーシャなんて、エミリより危なっかしすぎる。


 リズムのいいステップを踏んで、魔王に拳を叩き込むアイーシャの姿が容易に想像できた。


「お前、少しゆっくりしたら、魔王への貢物でも持って、ちょっと様子を見に行ってくれぬか」


「……私ひとりであの洞穴を通るんですか?

 さっきは途中で魔王の腹心の部下、レオ殿に出くわしたから、なにも起こりませんでしたが。


 話の通じない下っ端の悪魔とか出たらどうしてくれるんです。


 私、実際のところ、なにもできませんよ」


「お前は、なんのために神官でいるのだ。

 権力を握るためか?


 そうでないのなら、ここで役に立ってみせよ。

 さっさと行け」

と無情にもセレスティアは言い放つ。


 王族の血を引いているとはいっても、自分程度では有力な王女などと結婚しない限り、王宮で力を持つことはできない。


 それならば、王家の血を引く神官、の方がのし上がりやすいのは確かだ。


 別にそれで神官になったわけではないのだが、と思うマーレクをセレスティアは威圧するように腕組みして見下ろしている。


「何故、早く行かぬのだ」


 いや、あなた今、ゆっくりしてからって言いましたよ、と思いながら、マーレクは言った。


「あなたがそこで仁王立ちになってらっしゃるからですよ、セレスティア様……」


 早く出てってください、男湯、と訴える。








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