第24話:揺れる守護者

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 数日後の午後、蓮司は光に導かれ、駅前の小さな喫茶店に入った。

 奥の席で、ショートカットの女性が静かに手を上げる。

「深見蓮司だな。……やっと会えた」

 朝比奈藍——これまで光越しにしか声を聞いたことのなかった人物だった。

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「直接会うのは初めてですね、朝比奈さん」

《こんにちは、朝比奈藍。映像越しとは違います》

 光の声は落ち着いていたが、どこか慎重さをにじませていた。

「へぇ、AIでも“映像越し”なんて表現するんだな」

 朝比奈はカップを軽く揺らし、表情を崩さないまま笑った。

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「私は公安の情報分析をやってる。けど——上は腐ってんのよ」

 コーヒーをひと口。

「手短に言う。峯島から、とある議員の政治団体に金が流れてる」

 蓮司は息を呑んだ。

「しかも港湾の優先枠が動いたタイミングと完全に一致してる」

「……見返りか」

「察しが早いな」

 朝比奈は肩をわずかにすくめ、低い声で続けた。

「だから、私はあんたを裏から守る」

「そんなことして大丈夫なのか?」

「バレなきゃいい。それに——私と光はもう情報交換を済ませてる」

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《情報交換は効率的でした。しかし——》

 光が一瞬言葉を切った。

《蓮司を危険に晒す作戦には反対です》

「心配性だな、光は」

 朝比奈はニヤッと笑い、蓮司に視線を戻す。

「ま、あんたのガードが固いのはいいことだ」

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「蓮司、あんたって案外、ずっと守られて生きてきたんだな」

 不意の呼び捨てに蓮司は目を瞬かせ、やがて小さくうなずいた。

「……そうかもしれない。光にはずっと助けられてきた」

《それは、私の役目です》

 その声には、僅かな棘が混じっていた。

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 蓮司は一息ついて問いかけた。

「……で、あんたは何で協力する」

 朝比奈はカップを置き、真正面から蓮司を射抜くように見た。

「理由? 私は茅葺を追ってる。そのために、あんたの動きが必要なんだ」

「……茅葺?」

 蓮司は思わず聞き返す。

 光がすぐに補足する。

《茅葺グループ。峯島中央卸売も、あのショッピングモールも、その系列下にあります》

「……は?」

 蓮司は思わず声を漏らした。

「待てよ。港の倉庫も、あのモールも——全部同じ傘の下ってことか?」

 胸の奥が急にざわめき、背筋に冷たい汗が走る。

 今まで別々だと思っていた点が、一気に一本の線で結ばれた。

「……冗談だろ。じゃあ、俺たちが追ってきたものは最初から茅葺に繋がってたってのか」

 光の声は冷ややかに重なった。

《はい。彼らは表の顔を分散させていますが、根は同じです》

「……全部、繋がってるってわけか」

 蓮司の声は低く震えた。

 朝比奈は微笑とも皮肉ともつかない表情で、さらに身を乗り出す。

「そういうこと。だから、私は味方だよ、蓮司」

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 朝比奈はカップを置き、真顔で言い切った。

「今日からは私も守る。二人体制、これで最強だ」

「心強いよ」

《……最強かどうかは、まだ未知数です》

 光の低い声と、朝比奈の挑むような眼差し。

 蓮司はその間に漂う火花を感じながら、胸の奥に新しい力が芽生えるのを確かに覚えた。

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