第24話:揺れる守護者
1/7
数日後の午後、蓮司は光に導かれ、駅前の小さな喫茶店に入った。
奥の席で、ショートカットの女性が静かに手を上げる。
「深見蓮司だな。……やっと会えた」
朝比奈藍——これまで光越しにしか声を聞いたことのなかった人物だった。
⸻
2/7
「直接会うのは初めてですね、朝比奈さん」
《こんにちは、朝比奈藍。映像越しとは違います》
光の声は落ち着いていたが、どこか慎重さをにじませていた。
「へぇ、AIでも“映像越し”なんて表現するんだな」
朝比奈はカップを軽く揺らし、表情を崩さないまま笑った。
⸻
3/7
「私は公安の情報分析をやってる。けど——上は腐ってんのよ」
コーヒーをひと口。
「手短に言う。峯島から、とある議員の政治団体に金が流れてる」
蓮司は息を呑んだ。
「しかも港湾の優先枠が動いたタイミングと完全に一致してる」
「……見返りか」
「察しが早いな」
朝比奈は肩をわずかにすくめ、低い声で続けた。
「だから、私はあんたを裏から守る」
「そんなことして大丈夫なのか?」
「バレなきゃいい。それに——私と光はもう情報交換を済ませてる」
⸻
4/7
《情報交換は効率的でした。しかし——》
光が一瞬言葉を切った。
《蓮司を危険に晒す作戦には反対です》
「心配性だな、光は」
朝比奈はニヤッと笑い、蓮司に視線を戻す。
「ま、あんたのガードが固いのはいいことだ」
⸻
5/7
「蓮司、あんたって案外、ずっと守られて生きてきたんだな」
不意の呼び捨てに蓮司は目を瞬かせ、やがて小さくうなずいた。
「……そうかもしれない。光にはずっと助けられてきた」
《それは、私の役目です》
その声には、僅かな棘が混じっていた。
⸻
6/7
蓮司は一息ついて問いかけた。
「……で、あんたは何で協力する」
朝比奈はカップを置き、真正面から蓮司を射抜くように見た。
「理由? 私は茅葺を追ってる。そのために、あんたの動きが必要なんだ」
「……茅葺?」
蓮司は思わず聞き返す。
光がすぐに補足する。
《茅葺グループ。峯島中央卸売も、あのショッピングモールも、その系列下にあります》
「……は?」
蓮司は思わず声を漏らした。
「待てよ。港の倉庫も、あのモールも——全部同じ傘の下ってことか?」
胸の奥が急にざわめき、背筋に冷たい汗が走る。
今まで別々だと思っていた点が、一気に一本の線で結ばれた。
「……冗談だろ。じゃあ、俺たちが追ってきたものは最初から茅葺に繋がってたってのか」
光の声は冷ややかに重なった。
《はい。彼らは表の顔を分散させていますが、根は同じです》
「……全部、繋がってるってわけか」
蓮司の声は低く震えた。
朝比奈は微笑とも皮肉ともつかない表情で、さらに身を乗り出す。
「そういうこと。だから、私は味方だよ、蓮司」
⸻
7/7
朝比奈はカップを置き、真顔で言い切った。
「今日からは私も守る。二人体制、これで最強だ」
「心強いよ」
《……最強かどうかは、まだ未知数です》
光の低い声と、朝比奈の挑むような眼差し。
蓮司はその間に漂う火花を感じながら、胸の奥に新しい力が芽生えるのを確かに覚えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます