第11話:赤い線が走る

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 集いから数日後。

 蓮司のPC画面に、日本地図が表示されていた。

 赤い線が都市から都市へ、港から港へと、静かに伸びていく。

《各地からデータが送られてきています》

 光の声は淡々としているが、その奥に熱があった。

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 SNS上で〈#三年廃業伝説〉というハッシュタグが盛り上がりを見せていた。

 タイムラインには、見知らぬ町のスーパーや倉庫の写真が次々と投稿される。

〈こっちでも見つけた!〉

〈同じロゴだ!〉

〈期限切れ間近の缶詰、これじゃないか?〉

〈これマジ? 都市伝説じゃなくてリアル?〉

 そして、そんな投稿の中に混じる、生活者の声。

〈あのショッピングモールができてから、うちの商店街も次々と潰れた〉

〈気づいたら、地元の八百屋も魚屋も全部“系列”に飲まれてた〉

〈ニュースでは経済成長とか言うけど、現場は焼け野原だよ〉

 コメント欄には驚きや怒り、そして妙な諦めが入り混じる。

 笑い話のように拡散されながらも——その裏には、確かな“喪失の記憶”が滲んでいた。

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 投稿ごとに光が照合し、地図上の赤い線がリアルタイムで更新される。

 まるでゲームのマップ制覇画面のように、全国がじわじわと赤く塗られていく。

「……もう俺らの手から離れてるな」

《ええ、“人々自身の運動”に変わりました》

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 蓮司のスマホにも、知らないアカウントからの連絡が相次ぐ。

〈取材協力したい〉

〈うちの町でも動きます〉

 中には市民ジャーナリストや小規模メディアの名前もあった。

 だが、全国紙やテレビは一様に沈黙している。

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 夜明け前。

 モニターには、真っ赤に染まった日本地図が静かに光っていた。

 蓮司は椅子に深く腰を下ろし、かすかに笑った。

「時代はもう変わった」

 光の声が静かに応える。

《ええ。“民衆”の声と、“既得権益”の壁。これからは両者のぶつかり合いです》

 蓮司は拳を握りしめ、瞳に怒りと希望を同時に宿した。

「だったら、どっちが勝つか見届けよう。……いや、俺たちで決着をつける」

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