第20話 僕がいない間にこんな事になるだなんて~クロノス視点~
「クロノス、聞いて。今度副隊長になる試験があるのですって。今回は4枠もあるのよ。私、受けてみようと思って。あなたも受けるでしょう?」
嬉しそうにアテナが話しかけてきたのだ。
「副隊長か、僕はそういうのはいいよ。アテナはずっと副隊長になりたいと言っていたものね。アテナならきっと、なれるよ。僕も全力で応援するから、頑張ってね」
「クロノスは受けないのね。あなた、ものすごく強くなったのに。勿体ないわ」
「僕はアテナの傍で、ずっとアテナを陰で支えたいんだ。僕が副隊長になったら、アテナと隊が別々になってしまうだろう」
「相変わらずクロノスは、可愛い事を言ってくれるのね。クロノスの気持ちに応えられる様に、頑張るわ」
嬉しそうに話してくれたアテナ。きっと君なら、立派な副隊長に、そしていずれ隊長になれるよ。そんな君を、僕はずっと支えたい。だから僕は、ずっと隊員のままでいい。
中には女の副隊長だなんて!と、時代錯誤な事を言う愚か者も出てくるだろう。でも、僕がしっかり黙らせるから、安心してね。
その為にも、早く他国の風を、我が国に取り込まないと!
実は兄上が今義姉と納めている国では、女性の騎士団長が騎士団を取り仕切っているらしい。もちろん女性騎士も多く活躍しているうえ、各隊の隊長も半数が女性だと聞く。
彼女たちに一度我が国に来てもらいたいと、考えているのだ。我が国の古い体質が、少しでも改善されたら、そう思っているのだ。
その為にも、僕は明日から兄上がいるレースティン王国に副騎士団長と向かう予定だ。実は副団長も、他国の騎士団に興味がある様で、今回僕の提案に乗ってくれたのだ。
彼はアテナの事も気にかけており
“アテナの様な女性が、もっと騎士団に増えてくれたら”
そう考えているらしい。我が国では、騎士団の総司令官でもある騎士団長や副騎士団長、各部隊の隊長や副隊長たち全員が男なのだ。
そもそも我が国の騎士団の、約99.9%が男なのだ。他国では多くの女性が騎士団で活躍しているのに、どんどん取り残されていく我が国に、副騎士団長も危機感を募っているらしい。
その為、アテナには本当に期待していると言っていた。もしアテナが副隊長になれば、我が国始まって以来の役職を持った女性騎士団員が誕生するのだ。まさにアテナは、騎士団に新しい風を取り込んでくれる希望の星なのだ。
そんなアテナを、僕もしっかりと支えたい。とにかく早くレースティン王国に行って、話しを付けてこないと。急げばきっと、副隊長の試験に間に合うだろう。そんな思いでレースティン王国に向かったのだが…
なんとアテナが不正を働き、騎士団を辞めたとの情報が、アテナにひっそり付けさせていたスパイからはいってきたのだ。まっすぐで曲がった事が嫌いなアテナが、不正など働く訳がない。
ただ、どうやら隊長のところで話が止まっている様で、副騎士団長の耳にはまだ入っていないようだ。
「副団長、申し訳ございません。急用がはいってしまいまして、申し訳ございませんが私は帰国させていただきます」
事情を知らない副団長だったが、僕の様子から何かを察した様で、後は自分に任せろと言ってくれた。
急遽帰国したその足で騎士団に向かったのだが、その途中
「本当にアテナ、本当に辞めてしまったな。俺たちのせいで…俺、アテナに何度も助けてもらった事があってさ。それなのに、俺は…」
「俺だってそうだよ。結局ハードの言葉に乗せられてしまったな。ハードの奴、あそこまで薄情だっただなんて。さすがにアテナが気の毒だな」
「でも、ハードに逆らったら、俺たちだってただではすまなくなるぞ。あいつ、今回の試験で確実に副隊長になるだろうし…」
あいつら、もしかして…
「君たち、今の話、詳しく聞かせてもらえるかい?」
笑顔で彼らの前に姿を現した。
「どうしてクロノスがここに?隣国に行っていたのではないのかい?」
「アテナの件で、急いで戻って来たのだよ。それよりも今の話、もっと詳しく教えてくれるかい?素直に話してくれたら、君たちを悪い様に話しなよ。でも、もし拒否するなら、今の会話を隊長に聞いてもらう事になるよ」
すっとポケットから取り出し、今の会話の一部を隊員たちに聞かせた。僕は論より証拠と思い、いつでも会話を録画できるように録画機を持ち歩いているのだ。
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