第10話 令嬢とはこんなに窮屈なのね
「どうですか?お嬢様。とてもお美しいでしょう。お嬢様は元々お美しい方なのですから。これからは、どんどんおしゃれをしていきましょう。もちろん、私たちも全力でお手伝いさせていただきますから!」
「皆、ありがとう。確かに見た目は令嬢に見えるけれど…ドレスってこんなに苦しいのね。それにこの靴、とても歩きにくいわ」
お腹周りを締め付けられていて苦しいし、靴もなんだか窮屈で歩きにくい。
「お嬢様、令嬢はその様にスカートをめくってはいけません。それにその様ながに股で歩くのもダメです」
「あら、そうなの?令嬢とは何とも窮屈な生き物ね。私、立派な令嬢になれるのかしら?」
ドレスを着ただけなのに、なんだか既に心が折れそうだ。こんな状況で、私は立派な令嬢になんてなれるのかしら?
既に不安になって来た。
「アテナ、着替えが終わった様だね…」
「クロノス、ドレスってこんなに苦しいのね。それにこの靴、とても歩きにくいわ。私、なんだか不安に…て、クロノス?どうしたの?」
なぜか私を見て固まっているクロノス。心配になってクロノスの元に近づこうとした時だった。
「アテナ、とても綺麗だよ。ただ、スカートをまくり上げるのはよくないね。それに歩き方も。令嬢はそんな大股で歩いたりしないよ。それにしても、綺麗だな…」
正気に戻ったクロノスにも指摘されてしまった。
「でもクロノス、スカートが邪魔で歩きにくいわ。それに足元が見えなくて怖いし」
スカートが長くて、踏んでしまいそうで怖いのだ。それにかかとが高いから、バランスも悪く転びそうで怖いし。令嬢はこんな靴を毎日はいているだなんて。
「ドレスの時の歩き方があるはずだから、その辺も教育係から指導してもらうといいよ」
歩き方から教えてもらわないといけないのね。普通に歩けないだなんて、やっぱり令嬢は大変だわ。
その時だった。
「お嬢様、教育係を連れて参りました」
ちょうど教育係がやって来た様だ。
「お嬢様、お久しぶりでございます。まあ、なんて事でしょう。あのお嬢様が、ドレスを着ていらっしゃるだなんて。この様なお姿を拝見できるだなんて、私はとても嬉しく思いますわ」
「先生、お久しぶりです。先生には子供の頃、色々と迷惑をかけてしまってごめんなさい。実は私、先日騎士団を辞めたの。それでこれからは、貴族令嬢として生きて行きたくて。でも私、マナーとか全くダメでしょう?だから一から教えてもらいたくて」
「まあ、お嬢様の口から、マナーを教わりたいという言葉が出るだなんて。もういつお迎えが来ても、悔いはございませんわ」
再び涙ぐみながら天を仰ぐ先生。
「先生、そんな悲しい事を言わないで。私、本当に何もできないの。だから、徹底的に教えて欲しくて」
本当に何もできないのだ。自分でも恥ずかしいくらいに。
「ええ、知っております。それではまず、食事からにしましょう。お嬢様はここ数日、全くお食事を召し上がっていらっしゃらいないのですよね。メイドの話では、マナーが出来ていない事を気にして、召し上がれなかったと伺いました」
さすが先生。既に情報を仕入れているのね。
ちなみに彼女は、代々我が侯爵家の令嬢たちを教えてきた教育係で、お父様の妹君でもある叔母様も、彼女から教育を受けたのだ。既に随分とお年を召しているが、それでも我が侯爵家に対する愛情は人一倍強い。
ただ私は、マナーを覚える事をこばみ、先生には随分と迷惑をかけてしまった。それでもまた、私の気が変わったらいつでも呼んで欲しいと言ってくれていたのだ。
こんな私を今でも見放さずにいてくれた先生には、感謝しかない。先生の気持ちに応えるためにも、頑張らないと!
「お嬢様はずっと食事をしていらっしゃらなかったとの事ですので、軽めにパンと野菜スープを頂きましょう」
目の前には美味しそうなパンとスープが並んでいる。でも、どうやって食べたらいいのかしら?いつもみたいにパンにかぶりつきながら、スープを口の中に放り込むだなんて事はダメよね。
さて、どうしたものか…
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