フリョーの先輩がフツーの私を悪堕ちさせようとしてくるんですが!
荒三水
第1話
どこをとってもフツーの私は、ずっとフツーの生活をしてきた。
身長体重ともに平均。
ちょい丸顔のミディアムボブヘアー。
勉強、運動ともに普通。悪くもなければ良くもない。
フツーの成績を収め、フツーぐらいの偏差値の高校に入学。
そしてあっという間のおよそ二ヶ月。
クラスで浮くことも沈むこともなく、私は早くもフツーな高校生活を謳歌していた。
そんなフツーオブザフツーの私にも、ちょっとフツーではない癖がある。
といっても全然フツーの範疇だけど。人に言うと、「ん?」と少し首を傾げられる程度のかわいらしいものだけど。
昼休みの教室を抜け出した私は、B棟校舎の三階に来ていた。
おもに特別教室の立ち並ぶB棟は、今の時間人の影はほとんどない。
早足に廊下を抜けて、屋上へつづく階段を上がった。
途中の踊り場で足をとめて、壁際の窓にとりつく。
梅雨入りしたばかりの6月。
外は今にも雨が降り出しそうな天気だった。
黒と灰色の混ざりあった重たい雲が、空一面を覆っている。
昼間だっていうのに校舎は陽が落ちたように暗い。
どんよりした空につられるかのように、こころなしか校内の喧騒も普段よりおとなしい。
けれど私は、こんな日こそ元気づく。
こういう日の空模様を眺めるのが好きなのだ。中でも台風の日なんかは最高。
強い風が吹き荒れて、雲がすごく早く流れて、あの世界が今にも破滅しそうな雰囲気。
中二病かな? とかって、そういうのと一緒にしてもらったら困る。
あの非日常感っていうか、こう自然の偉大さを実感するっていうか、その中で生きている、生かされている自分、みたいな。はっきり言葉にするのは難しいんだけど。
窓を半分ぐらい開けると、風が吹き込んできた。この湿った空気の匂いも好き。
私は少しだけ身を乗り出して、スマホを横に構えた。
「ん~なかなかいいですねぇ⋯⋯」
狙いは絵の具で雑に塗りたくったような灰色の雲。
空の動きが早い。それを動画モードにした画面の中に収める。
「⋯⋯なにしてんの?」
本当に驚いたときは声すら出ないらしい。
とつぜん背後からかけられた声に、びくっと体をはねさせた私はスマホを取り落とした。
慌ててスマホを拾おうとすると、近づいてきた人影も一緒に身をかがめた。
白くてきれいな膝。短めのスカートからはすらりと長い足が伸びている。
「はい」
先にスマホを拾われ、手渡される。
指ながっ、と思った。そんな場合じゃないのに。
「あっ、ありがとう⋯⋯。ございます」
とっさにございます、をつけて、上目遣いに顔を上げる。
目に飛び込んできた容貌に私は息を呑んでいた。
小さい卵型の顔に高い鼻。
顔の輪郭をなぞるサラサラのショートカットは明るい色をしている。きれいな二重まぶたの瞳が前髪の奥でまばたきをした。
思わず見とれてしまうほどに整った顔。
かわいい、というか、きれい⋯⋯というか、かっこいい?
あれだ。美形って言葉がしっくりくる。
そんな形容詞はリアルの知り合いに使ったことなんてないですけど。
彼女は私にスマホを返した手で髪をかきあげた。片側の前髪が少し長い。それから耳に入れていたイヤホンを外しながら聞いてきた。
「で、なにしてんの?」
なんの表情もなく、じっと私を見つめてきた。なんか怖い。
いっぽう私は笑おうとした頬を引きつらせ、不審者のように目を泳がせていた。
「ち、ちょっと、外を⋯⋯」
「外を?」
「⋯⋯撮ってる?」
って言うしかない。
てか、いつからいたの? どこから見られてたの?
なんて、頭がぐるぐるしている私にむかって彼女は首をかしげた。
「盗撮?」
「ち、ちがいます!」
「うーん⋯⋯?」
なおも不思議そうに私を見ると、彼女は立ちあがって窓の外へ視線をむけた。
「あ、わかった。あれか」
窓から下を指さした先には、数人の男子生徒の姿があった。
校舎の裏側でたむろして、何事か騒いでいる。絶対怖い人達に違いない。
「よくないと思うよ。そういうの」
「な、なにがですか?」
「おーい、そこの君たちー!」
「ちょっ!」
あろうことか彼女は下にいる男子に向かって手を振りだした。
焦った私は飛びかかるようにして彼女の腕をおろして、窓枠からはけさせる。はずみで体に触っちゃったけど言ってる場合じゃない。
「え、やだ胸触られたんですけど」
「さ、触ってはないです! ぶつかっただけで! てかやめてくださいそうやって⋯⋯」
「おかえし」
「ぎゃっ!」
むんず、と胸を鷲掴みにしてきた手をすぐさま振り払う。
いきなりなにするのこの人。軽く肘が当たったぐらいで私はそんな触り方してない。
「あのさーそんなストーカーみたいなことしてないで、直接アタックすればいいじゃん」
「だから違いますって!」
どうやら彼女は私のことを「好きな男子をこっそり盗撮しているちょっとアレな子」とでも思っているらしい。
ちょっとアレな趣味であることには変わりないけど、変な勘違いされるよりはマシだ。
私はスマホで撮っていた動画を見せることにした。
彼女は再生された動画を無言で見つめていた。
ややあって顔を上げて、眉をひそめた。
「⋯⋯なにしてんの?」
堂々巡りだった。
しかもさっきより私に対する不審者感が増している。
気は進まないけども、しっかり解説が必要みたいだ。
「え、ええっと、なんというか。私は、つまりその⋯⋯空が好きなんです」
「え、やば」
「へ?」
「いきなり告られた」
「は?」
ぽかんと口を開けた私を見て、彼女は自分の顔を指さした。
「あたし、そら。名前」
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