紡がれる『絆』の物語

@GK-betoo

プロローグ

 夏の昼下がり。リビングではエアコンが、部屋の中に冷涼な空気を提供していた。窓から差し込む陽射しは、畳の上にまぶしい光の筋を描いていた。

 島田 孝子たかこは、右手に濃紺のガラス玉、左手には溶けかかったアイスキャンデーを握りしめ、ロッキングチェアに揺られていた。口元についた冷たい雫を舌で拭い、そのまま宙を見つめていた。足元には、夏らしい花柄の部屋履き用スリッパが、床にぽつんと置かれていた。

「うん、やっぱりソーダ味が一番!」

 そう言って、アイスキャンデーを一口かじった。冷たい甘さが口いっぱいに広がり、身体の熱がすっと引いていくのを感じた。

 孝子はふと、右手のガラス玉に目を落とした。

〈おばあちゃんの宝物よ。あなたにあげるわ。大事にしてね〉

 幼少の頃、祖母の島田 三枝子みえこからもらった、濃紺の小さな玉。光を浴びて、まるで宇宙を閉じ込めたかのようにぼんやりと光っている。普段は御守袋おまもりぶくろに入れ、首から下げて身に付けているのだが、時々取り出してはその鈍い輝きを確かめている。

 中学1年生、13歳の夏。夏休みも後半に差し掛かり、そろそろ宿題を終わらせなければと思いながらも、ぼんやりと過ごす昼下がりだった。


 その時、ガラス玉が脈打つように熱を帯び、眩しく輝き始めた。

「これ、どうしたんだろ……」

 不思議に思って握りしめた瞬間、孝子の身体はぐらりと揺れた。ロッキングチェアの揺れが止まった。一瞬で、窓から差し込んでいた暖かな光が遠のき、世界中の音が消えていった。

「ヒュゥゥゥ……」

 次に聞こえたのは、肌を刺すような冷たい風の音だった。

 孝子がゆっくりと目を開けると、そこは一面の夜の雪景色。右手に握られているのは、祖母からもらったガラス玉。左手には、もはやこの場にはあまりにも不釣り合いな、一口かじったアイスキャンデー。足元の部屋履き用のスリッパは、雪の冷たさから足を全く守ってくれなかった。みるみる足下がかじかんでいくのが分かった。

 突然、冬の世界に投げ出された。着ているのは夏のワンピースのまま。 凍える体で、震えながら立ち尽くす。

 どうして……?

 どこ、ここ……?

 暗いよ……寒いよ……怖いよ……

 孝子は、ひとり途方に暮れていた。

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