第5話「蘭学書の中の暗号」

(……このページ、何かがおかしい)


母が読み始めた蘭学書。

その中の一節に、

宗一郎の脳が異常反応を示した。


「交易における銀の流通は、

東西の均衡を崩す要因となる」


一見すれば、経済学的な記述。

だが、


文体が他と違う。

語彙の選び方、句読点の配置、

そして―― 

ページの端に刻まれた微細な模様。


宗一郎は、

スキル【論理演算】と【記憶再生】

を同時起動。


(この模様……暗号だ。

しかも、ステガノグラフィ方式)


ページの装飾に見せかけた

情報埋め込み。

それは、現代の情報理論でしか

解読できない“知識の罠”だった。


暗号の解読結果

【設計者メッセージ:第1層】

南京条約阻止の鍵は、

交易ルートの再編にあり。


銀の流通を遮断せよ。

そのためには、

長崎の密貿易を利用せよ。


宗一郎は震えた。

この世界には、

確かに“設計者”がいる。


そして、

彼らは宗一郎に

“歴史の修正”を託している。


(長崎の密貿易……

つまり、裏ルートを使って

銀の流れを変えろってことか)


だが、赤子のままでは動けない。

情報を伝える手段も

限られている。


さあ、

情報戦の開始といこうじゃねぇか!


宗一郎は、母の読書習慣を観察し、

次の一手を打つ。


「オギャア……

(母さん、次の巻を読んでくれ)」


泣き声に込めた微細な音程変化。

それは、

母の脳に

“次巻への興味”を

植え付ける知力誘導。


さらに、

父の診療所に出入りする

商人の会話を分析。


銀の流通に関する噂をキャッチし、

記憶に蓄積。


(しかし、この情報を、

どうやって“外”に出すか……)


宗一郎は考える。

赤子のまま、

密貿易ルートに干渉する方法を。

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