第4話 災厄か福音か


門の存在は、とうとう隠せなくなった。

噂は国境を越え、瞬く間に世界中へ広がる。新聞の見出しが躍り、ラジオは連日「門」の話題を繰り返す。

「……門が本物なら、世界は変わる」

「いや、終わるんだよ」

「魔法? ドラゴン? 何言ってやがる」


市場の片隅、酔っ払いと商人の口論が飛び交う。誰もが知ったつもりになり、誰も真実を知らない。


やがて国営放送が、それに終止符を打つ。

重々しい声がラジオから流れた。


「これは、神が我々に与え給うた試練である」


放送を聞いていた市民の多くは、顔を見合わせ、やがて小さく頷いた。

閉塞した戦局に沈んでいた人々は、その言葉を希望の証として受け取った。


議会は即座に動く。


「予備兵を含む全戦力を動員せよ」

「異論はないな?」


木槌の音が響くと同時に、大規模派兵が正式に決まった。


だが、門を巡る欲望はマウアーだけのものではない。

海外の政治家たちも動き出し、工作員たちが国境を越えようとしていた。


前線の軍はすぐに検問を強化する。

通行証制度を複雑にし、前線一帯を封鎖した。


塹壕で双眼鏡を構える兵士が、ため息をつく。


「派兵部隊が来るまで防衛と偵察だとよ……」

「待つだけってのも、結構きついもんだな」


門の向こうで何が次に現れるのか、誰にも分からない。

ただ、冷たい風と、張り詰めた空気だけが前線に漂っていた。

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