第5話 振るわれる未来の暴力①
八王子ダンジョン
日本に出現した最初期からあるS級ダンジョンで、今まで32回のS級モンスターの出現、9回のスタンピードを発生させている。
そんなダンジョンの入り口に、俺達は足を運んでいた。流石に一切の試験等無しで政府探索者になれる訳ではないためだ。
「ここが…八王子ダンジョンか」
灰色の
中に見て取れる様子は普段潜っていたE級ダンジョンと大差ないが、どこか異様な雰囲気だ。ぶっちゃけ景色が大差ない分余計不気味に感じる。
『あー聞こえているか?理亜くん』
「聞こえてます」
そのまま入り口手前で足を止めていると、配信用ドローンから東野さんの声が響く。モタモタしてるのを咎められるかと一瞬身構えたが、単純に機器のチェックだったようだ。
『よし、隣のクオン君も聞こえているな?簡単に
なるほど、自衛隊による討伐が無理なら先送りにするしかないよな。
『だから君達に頼みたいのはこのアラクネの討伐、並びに巣の除去だ。また、試験と銘打ってはいるが君達を採用することは決定事項だからあくまでこれはこちらが君達の力を少しでも把握するためのものだ。そこまで気負わなくて良いぞ』
「分かりました。クオン、行けるか」
「戦闘準備よし、いつでも」
「オーライ」
さて、行くか。
************
ダンジョンの中に入り歩くこと数分、最初に襲いかかって来たのはB級モンスターのヘルハウンド3体だった。
-既存データに存在しない生命体 危険度解析開始-
-目標組織構成要素 既知の生命体との最大一致率46%-
-目標体内に正体不明の高エネルギー体及び全身器官確認-
俺の中に在る戦闘システムがヘルハウンドを自動で解析し始めた。もはや違和感は殆ど無く、自然に機械音声に耳を傾ける。
-目標を新種の生命体として登録-
「目標名称指定、ヘルハウンド」
-了解 目標登録 名称 ヘルハウンド-
以前の俺なら逃げる事しか出来ず全力で駆け出していただろう。だが今の俺は…
「マスター、戦闘機動のインプットは終わっていますね?」
「あぁ、移動中にほぼ全部学習出来た。前の世界のようには動けないと思うけど、力に振り回される事はないと思う」
「なら私は後方で待機します。ご武運を」
クオンに見送られ、俺は低く唸りつつ囲いを狭めてくるヘルハウンドに近づく。そして彼我の距離が10m程に近づいた時、一体のヘルハウンドが飛びかかって来た——
「…Gyn!?!?」
今俺がした事は至極単純だ。飛びかかって来るヘルハウンドにタイミングを合わせて右腕を振るっただけ。
———ただそれだけでヘルハウンドは体をひしゃげさせ、数十m先の壁の染みと成り果てた。
-右腕駆動部通常作動 装甲損傷なし-
「Grrrrrrrr」
残る2体も、仲間に何が起こったのか分かっていないのか左右に分かれて挟撃を試みるようだ。
牙を剥き出しに魔力を纏った攻撃を仕掛けて来るが…腕の一振るいでただの肉塊に変貌する。
-目標排除-
-危険度解析完了 知能指数 底 連邦式脅威度指標 ランク3-
『魔法も武器も使わずにヘルハウンドを一蹴…か。凄まじい身体性能だな』
「マスター、この程度ではマスターの真価を発揮する事は不可能です。早々に下層へ行くべきかと」
東野さんの声に続いてクオンが下層に急ぐことを進言して来る。確かにB級モンスターでは兵装試験すらままならなさそうだ。
「分かった…どうせならあれを使うか」
-兵装支援ポッド ”イソノカミ“ 亜空間リンク接続-
-供給兵装 “
俺の背後に亜空間より現れた巨大な三角柱…兵装支援ポッドである〈イソノカミ〉から光の粒子が俺へ投射され、右腕に装着される形でその兵器が量子から構築されていく。
数秒後、俺の右腕を取り込み地面に突き刺さっていたのは、全長3mを超える粒子型パイルバンカー〈フツノミタマ〉だった。
この兵器は瞬間的に超圧縮されたビーム刃を放ち、強固なシェルターや取り付いた宇宙戦艦の装甲を貫くために開発され、俺のような強化人間が扱う兵器の中では最大級の大きさを誇る。
またこの大きさ故携行は困難なため、普段は亜空間格納庫に収納され必要に応じ量子再構築を通じて使用される…らしい。
『……君は、一体何をするつもりだ?』
戦々恐々といった様子で東野さんが俺に尋ねて来る。俺の背丈を優に超える巨大な兵器が現れたのだから当然だ。
「これを使ってダンジョンに穴を開けます。上の階層では敵が弱すぎるので」
『なるほどな。私としては出来るだけ多く戦闘して欲しかったんだが、まぁ良いだろう』
-コトワリ フツノミタマ間の回路接続完了 エネルギー充填開始-
エネルギーが右腕に集約されていくのを感じながら、俺は砲身を垂直に地面に押しつけ固定アームを展開、左腕を砲身に添える。
-射出機固定 使用予定位置のスキャン結果 平均して厚さ20m程の岩盤及び高さ20m程の空間が連続している模様 総階層数139-
「130階層まで一気に貫く。破孔直径2m 動力炉出力上昇、エネルギー回路増設」
-固定アーム周辺地盤 地盤沈降防止アンカー接続-
-動力炉から右腕部 組織変成 エネルギー回路増設-
-全駆動部固定 コトワリ 射撃姿勢を維持-
人工強化骨格の各駆動部が固定され、俺は完全に同じ姿勢のまま射出プロトコルを進めていく。唯一動かせるのは右腕の人差し指だけ。
-砲身内全粒子収束リング起動 出力固定 エネルギー充填率100%-
-圧縮炉 粒子圧縮値98 排熱パネル展開-
-砲身閉鎖扉負荷上昇 耐久限界まで5338秒-
排熱パネルが展開されると甲高いチャージ音が辺りに響き渡り、隙間からは蒼い燐光が漏れ出始める。視界コンソールに示される情報はオールグリーンだ。
-粒子圧縮値100 砲身角度 排熱 エネルギー供給 全て問題なし-
-砲身周辺に防護フィールド展開 フツノミタマ 射出準備完了-
本来ならここまで時間をかけて準備をする事はない。俺が前の世界の記憶を失った今の状況では、フツノミタマに限らず各種外部兵装は一度しっかりと使用プロセスを踏むべきとクオンに言われたためこうして時間をかけているのだ。
「Gyurrrrrr」
-警告 方位1-2-0 距離90 ヘルハウンド2体捕捉 射出妨害の可能性あり-
ただやはり、ここはS級ダンジョンということもあって次のモンスターがすぐに現れこちらに向かって来る。もし俺が1人なら射出姿勢を解除し排除に移らなければならなかったが…生憎俺は1人じゃない。
「マスターの邪魔はさせません」
ヘルハウンドが俺に向かって駆け出そうとした瞬間、その体は真っ二つに切断された。
〈0式空間切断機構〉——クオンが搭載する空間兵器で、亜空間ゲートの応用により防御不能の斬撃を放つ。前の世界では使い勝手が悪かったらしいが、この世界では恐らく最強クラスの攻撃だろう。
「マスター、やってください」
「おう」
クオンは片付けたヘルハウンドを一瞥すらせずに言い、俺はフツノミタマの安全装置を解除、トリガーに指をかける。
-安全装置解除 射出指示待ち-
「フツノミタマ、発射!」
瞬間、短い炸裂音と共に蒼い閃光が辺りを照らしだすのだった。
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