第22話 兄妹とのコラボ企画


 ユイとDPダンジョンポリスの詰所で別れた翌日。


 アキラは一人、再びダンジョンへと足を踏み入れていた。


 転移の光が収まると、見渡す限りの草原が広がっている。

(よし、第一層への転移は完了……まずは合流だな)


「さて、約束してた場所は『セントラルゲート』だったよな?」

 アキラはスマホに向かって声をかける。


『はい。待ち合わせの場所は、ダンジョン第一層の中心部にある“ランドマークポータル”、『セントラルゲート』で間違いありません』

 スマホから響くレイアの声に、アキラは小さくうなずいた。


名無し:【確かこの前助けた兄妹とコラボするんだったか】


「ああ、ユイとのコラボがなくなって、ちょうど良かったからな」

 コメントに返しながらステータスを切り替え、アキラは力強く地を蹴った。


 敏捷にほぼ全振りしたその速度は、並の探索者では残像すら追えない。


 風を切り、緑の海を突き進んでいく。


名無し:【速すぎワロタ】

名無し:【これ、馬より速いだろ……】


 やがて、地平線の向こうに巨大な影が現れた。


(あれか……!)

 遠目にもはっきり分かるほど巨大な「門」だった。


名無し:【お、セントラルゲートが見えてきた】

名無し:【いつ見てもデカいな】


 近づくにつれ、周囲にはプレハブの建物やテントが立ち並び、まるでお祭りの屋台村のような活気が押し寄せてくる。


「たしか、ゲートの北側だったな」

 人混みを縫うように速度を落とさず走り抜け、門の根元へとたどり着く。


「あーっ! こっちよ! こっちー!」

 人混みの先で、大きく手を振る少女がいた。


 先日助けた探索者の兄妹、その妹のヒカリだ。


「ど、どうも……」

 隣では兄のハルトが、少し照れた様子で手を挙げている。


名無し:【お、助けた兄妹じゃん!】

名無し:【妹ちゃん可愛いなw】


「ごめん、少し遅れちゃったかな?」

 アキラが二人の前に立ち、気まずそうに言う。


「あ、いえっ!? 俺たちが早く来すぎただけで!」


「ハルトったら、おじさんと会うの、すごく楽しみにしてたんだよ!」


「ちょっと! ヒカリ!」

 慌てるハルトと、と無邪気に笑顔を浮かべるヒカリ。


「おじさんか……」


(分かってたつもりだけど、改めて言われると結構くるな)

 小さな声でつぶやくアキラ。


 そんな彼の前で、兄妹は二人で言い合いを続けていた。


(しかし、こうして改めて見ると二人とも本当にビジュアルがいいな……)

 言い合いをしている二人を、まじまじと観察するアキラ。


 兄のハルトは短髪で清潔感のある髪型に、丈夫そうな長ズボン。背中には使い込まれた剣と盾を背負い、いかにも前衛といった雰囲気だ。


 一方のヒカリは、肩まで届く青髪を揺らし、動きやすそうな短いスカートを身に着けている。腰にはホルスターに収められた拳銃が下がっている。


 二人とも、透き通るような薄い青色の髪がとても似合っていた。


「ヒカリちゃんは銃を使うんだね」

 アキラがそう言うと、ヒカリは目を細めながら顔を近づけてくる。


「ふふん。そうなんだよ。私のこと、ガンスリンガーって呼んでもいいよ?」

 指で拳銃の形を作り、得意げな表情を浮かべた。


「最近は魔法系のスキルを手に入れたので、そっちがメインですけどね。銃はサブみたいなものです」

 ハルトがため息まじりに説明する。


名無し:【これは苦労人の匂い】

名無し:【妹ちゃんかわいい】


「私は銃のほうが好きなのに、ハルトったら全然使わせてくれないの!」

 ヒカリが不満そうに口を尖らせる。


「……お前が撃ちすぎると弾代がかかるんだって。スキルならMP消費で済むだろ?」


「やっぱり金がかかるんだ?」

 アキラの問いに、ハルトは苦笑しながらうなずいた。


「ええ。特にヒカリに持たせてるのは良い弾なので」


 なるほど、とアキラは納得する。


「ねえ、おじさん! 今日は何をするの?」

 ヒカリの一言で、アキラははっとした。


「えっ……」

 言われて気づく。コラボ内容を何も聞かされていないことに。


 ハルトに目を向けると、彼も顔をこわばらせていた。


 どうやら 何も考えていなかったようだ。


 名無し:【どうした?】

 名無し:【どんなコラボ企画なんだろうな】


(まずい……二人が考えてくれてると思って、何の準備もしてないぞ……)

 視聴者を失望させないために、必死に頭を回転させるアキラ。


――そして。


「ああー! そうだ。俺、探索者を始めたばかりだから、先輩として二人には色々と教えてほしいなー!」

 声を上ずらせながら、わざとらしく叫ぶアキラ。


「えっ!? そうなの?」

 ヒカリが大きく目を見開く。


「ああ。今日でダンジョンに入って七日目だ」


「ええ〜っ! 私のほうが、すごく先輩じゃん!」

 両手を口に当てて驚くヒカリ。


「それで、もうレベル十五って本当にすごいですよね!」

 そんな彼女の横で、ハルトが目を輝かせる。


「よく知ってるね、俺のレベルのこと」


 意外そうに言うアキラに、ハルトは言葉を濁す。


「あ、それは……その……」


「ハルトはね、おじさんの配信をすごく見てるんだよ!」

 そこにヒカリが割り込んできてあっさりと暴露した。


「そうだったのか。見てくれてありがとう」

 驚いたアキラがお礼を言いながら笑顔を向けた。


「は、はいいっ!」

 ハルトは緊張した様子で笑顔を浮かべる。


「でも、教えるって何をすればいいの?」

 不思議そうに首をかしげるヒカリ。


「俺はユニークスキルに頼って戦ってきたからな。今日はそれを使わない、普通の戦い方を教えてほしい」

 そう言って、アキラは笑いかけた。


「オッケー! まっかせて!」

「分かりました。任せてください!」

 二人が同時に返事をする。


「ああ、今日はよろしく頼むよ」


 アキラが拳を突き出すと、三人の拳が重なった。


◆◆◆



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 メモ


 ランドマークポータルとはダンジョンのあちこちに存在する通常のポータルとは違い、大きくて目立つために固有の名称を与えられているポータルのことである。


 中でも、ダンジョン第一層の中心部にあるセントラルゲートは、強大な門の形をしており、周囲には観光に来たものや、出店がおおくあり、いつも人でごった返している。


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