第14話 未来
目が覚めると、四度目の景色が広がっていた。私は首を触りながらナオトに言った。
「ねえ、ナオトお弁当の中身当ててあげよっか?」
私は前回の一週間家にいる間にずっと考えていたことがあった。それはナオトに正直に、タイムリープをしていることを話してよかったのかと言う点だ。ナオトは優しく、私を大事に思ってくれる。がゆえに、私の外出を禁止した。そして私はこれはあまり得策でないと感じた。後ろ向きな考えになるけど、私が死んで四度目のループに入ったら、あまりにも三回目のループで得る情報が減るからだ。そして実際私は殺されてしまった。私が家にこもっている間、ナオトは情報収集を頑張っていて、私にもいくつか連絡してくれたが、すべてを教えてくれたとは限らない。彼は優しいから、私が傷つく情報などは教えなかった可能性があるからだ。例えば、私の友達が怪しいとか…そういうのは伝えてないかもしれない。また、ナオト自身切羽詰まってるのもあって、うまく情報を伝えきれていない気もした。女神像のこともそこまで詳しい感じではなかったし。だから、考えた。タイムリープのことは黙ろうと。そして変わりに…
「私、未来が読めるようになったの!超能力ってやつ?ナオト今日、ハンバーグ弁当でしょ?あっ!あと、タコさんウインナーも二個入ってたね!」
そう未来を読めることにする。未来を読んで、七日目に死ぬことにすれば、それ以前に殺される可能性を加味して私の外出を禁止することもないだろう。やっぱり、私のことである以上ナオトに任せっきりは嫌だし、なにより二人で調査した方が効率がいい。仮に今回も死んでも、私がしっかりとした情報を引き継げるし……
「…当たってる。……お母さんに聞いたのか?」
ナオトは疑いの目を向けている。
「ううん。未来を見たの。」
「はあ、いつも言ってんだろ?嘘は半分まで。そんな雑な嘘信じるかよ。第一そんなことなら俺もできるぜ。」
「えっ」
予想外の反応だ。
「ナナカは今日唐揚げ弁当だろ。」
「!」
私は当然弁当箱を開けずとも、自分の弁当が唐揚げなのを知っている。けど、どうしてナオトが!?
「なんで分かったの!?」
「……簡単な話だ。お前昨日「今晩唐揚げなんだ~♪」って嬉しそうに話してただろ?ナナカの弁当は基本、前日の晩御飯の残り物だからな。」
「なっなるほど~」
そういえばそんなこと言ってたっけ?昨日って言っても、私からしたら三週間ぐらい前のことなんだよね。
「えっと……じゃあ!今日数学の抜き打ちテストがあるよ!」
「先生が話したのでも盗み聞きしたのか?」
うぐっ…ナオトは一切信じる気配がない。未来を見る能力って言った方が、タイムリープできるってことより信じさせやすいと思ったのに……そもそも前回はなんで信じてくれたんだっけ?…そうだ。
「…真剣なの。信じて!」
ナオトは私の目を見て少しうろたえた。前回は私の真剣さがナオトの信頼を勝ち取ったんだ。そう、私にできるのはいつだって一生懸命することだ。
「……ってもなあ、」
よし!もう一押しだ!あとは何か…そうだ!そういえばこの後…
「もうすぐ橋本くんが思いっきりこけるよ!食堂から帰ってきてね!」
そういった直後、橋本くんが勢いよく教室に入り、転んだ。今となっては見慣れた景色だ。周りに笑い声が響く中、ナオトは驚きの表情を隠せてなかった。
「詳しいことは放課後、部室で!」
私の言葉にナオトはゆっくり頷いた。やっぱり話すときは二人きりがいい。ちょっと緊張するけど、あんまり周りには聞かれたくないし。もしかしたら犯人は近くにいるかもしれないからね。
放課後に部室で、私が体験したことを未来のこととして話した。ここまで来ると、慣れてきたもので要点やこれからやりたいことなども簡潔に説明できた。とりあえず死因は一回目の、女神像の前で殺されたことにした。こうするとスムーズに女神像の調査に繋げられると思ったからだ。そして、七日後に殺されることを強調した。恐らく今までのループからそれ以前に殺されることはないだろうし。ナオトはこれらの説明を驚きつつも受け入れてくれた。
「なるほどな…信じがたいけど、信じるよ。それで、まず女神像から調べるんだっけ?」
「うん。私は図書室で資料を漁ってみようと思う。確か、学校の歴史についての本があった気がするからね。」
私がここまで女神像をしっかり調べたい理由は、とある仮説があるからだ。それは、「犯人もタイムリープしている」というものだ。私は家の中にいても殺されたし、絶対に七日目に殺されている。犯人もタイムリープしていて、私の行動を把握しているなら納得がいく。けどまあ、なんで七日目にしか殺さないのかって疑問はあるけど…この仮説はあくまで仮説に過ぎない。もしそうなら、このタイムリープの力を習得した理由が、犯人特定のヒントになるかもしれない。だとすれば、女神像が一番怪しいってわけだ。
「おっけー…ところで未来を読んでこの調査の結果を知ることはできねえの?」
「えっ」
確かにそうだ。当然の質問。私は前の一週間で女神像について詳しく知れなかったから、答えれない。どうごまかそう。
「えっとお……その、私が未来を見たのは昼休みの時で、そのとき一気に未来の映像が流れてきたの!で、見た未来ではこの調査をしてなかったから分かんないんだ!」
「…そっか、分かった。じゃあ俺は女神像のほう直接見てくる。なんか発見があるかもしれないしな。」
「う、うん。分かった!」
なんとか誤魔化せた。私がタイムリープしていることを隠してるのがばれたらややこしくなる。まあ、ナオトもまだ頭の推理がすんでいないのだろう。いつもならもっと深く質問してきそうなものだ。とりあえず今は図書館へ急ごう。急ぐって言っても隣だけどね。
図書館に入ると、何人か人がいて勉強している生徒もいた。そういえば、今月末はテストだ。今はそれどころじゃないけど……前まではテストなんて面倒くさくて、テスト勉強も大変な印象だけど、今ではその時間も大切なんだと思い知らされる。嫌な時間も大変な時間も、生きてるからこそなんだ。生きなければ、次の時間へと進めない。
「あっ、七瀬さん。珍しいですね。」
眼鏡をかけたおさげの女子が話しかけてきた。
「岡村さん!久しぶり!」
岡村さんは同じクラスになったことはないけど、図書室が部室のとなりにあるため何度か会話をしたことがある。
「どうしたんですか?」
「えっと、ちょっと調べもの!女神像について調べたくて!」
「女神像ですか?それなら私、詳しいですよ。」
「えっ、そうなの?」
「はい。少し前に調べたことがあって。ぜひ聞いてください!」
岡村さんは嬉しそうに語った。
「じゃあ、お願いしようかな。」
私は岡村さんから女神像について聞いた。初代校長の友達だった岩堀さんって言う人が作ったこと、妻をモチーフに作られたこと、タイトルが「愛」ってこととか。そう言えば最初に死ぬとき、女神像の足元にそう彫ってたのが見えたっけ?岡村さんとちゃんと話したのは始めてだったけど、優しく教えてくれた。
「ありがとう、岡村さん!」
「どういたしまして。それにしても、どうして女神像のことを?」
「えーーと、なんとなくかな?…ちなみに、どうして岡村さんは女神像について調べようと思ったの?」
「私は……お母さんもこの学校を卒業してるんだけどね。その時も女神像にお祈りする文化があったんだって。それを聞いて何でみんなお祈りするのか気になって、調べたんです。」
「へー」
女神像は古くからいろんな人のお願いを聞いてきた。きっと、私みたいに恋愛のお願いをした人もいたんだろうな。
「岡村さんは……もし、女神像が特殊な力…超能力とかを人に授けたって聞いたら信じる?」
「超能力?」
「あっ、もしもだよ!も、し、も!」
「………信じれない話ですが、まあ理由もなしに突然超能力に目覚めだって話よりは信じられますね。」
「そう?」
「なんてったって長い間、いろんな人がお祈りしてきた像ですから。ちょっとした奇跡ぐらい起こせそうじゃないですか?神社とかだってたくさんの人がお祈りしてるからこそご利益がありそうですし。ふふ、おもしろい話ですね!」
「うん。私もそう思う。」
愛の女神像。私は死ぬ間際、そして死んで幽霊になったときもナオトのことを考えていた。それは私の他のどんな感情よりも強い、愛の気持ち。この力は、そんな気持ちに女神像が奇跡を起こしてくれたのかな。
「あっ、私図書委員の仕事があるのでこの辺で。そうだ、ちょっと待っててくださいね。学校の歴史についての本があったはずです。」
そう言って岡村さんは本を取ってきてくれた。
「たくさんありがとう。ちょっとここで読んでみるね。」
私はしばらく本を読んで、女神像について勉強することにした。本を読んで確証をえるのは大切だ。…ナオトはもう部室に戻っているかな…?
その後部室に戻ると、まだナオトは帰ってきてなくて、5時50分ぐらいに疲れた様子で戻ってきた。女神像の管理人さんに捕まったらしく、いろんな話を聞かされたらしい。あの管理人さんは独特だし大変そうだった。見た目も派手だし、なんかダイナミックな人だからね。だがどうやら、管理人さんは、像を作った岩堀さんの孫らしく大事そうな話もあった。
「女神像は……愛そのもの…」
愛を作ろうとしたら、奥さんになっていた。そん素敵な話を聞いたらしい。
「よーし!がんばろっ!」
私は背筋を伸ばしてそう言った。突然大きめの声を出したことにナオトは少し驚いていたが、笑って
「ああ。がんばるか!」
と答えてくれた。前回よりも進展がある気がする。このまま未来へと進むんだ。
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