ただの人間でも、新しい世界を作ってしまえ☆彡
日焼け止めスーパーアクア(ぬ~りぬり)
第1話 初めての海《あたし》
太陽が照り付ける海。季節は夏だ。海の家にはカップル連れや家族連れで賑わっている。時々音質の悪いスピーカーから迷子のお知らせが流れるが、大半聞き取れない。そんな中、
「あぁ、夏だな。とても居心地がいい。」
そう呟くと何処からか男の声がする。
「先輩、買ってきました。」
目を開けると傍には汗を染み込ませた海パンを履いている男が立っていた。海にすら入っていないのにも関わらず頭の天辺から滝のように流れる汗を気にも留めていない。誰が見ても熱中症で倒れはしないかと心配させるこの男は私の部下だ。彼は新人として、指導者である私が教育している。そう言えば数十分前に彼にかき氷を買って来て欲しいと頼んだことを思い出した。
「あぁ、ご苦労様。」
私は体を起こし、彼からかき氷を受け取る。
「先輩の仰った通りにマンゴー味のかき氷を買ってきました。」
「あぁ、ありがとう。」
スプーンでシロップがかかった氷の頂を削り取り、口に運ぶ。
「あぁ、冷たくて美味しい。」
「良かったです。」
その言葉を聞いて彼はゆっくりと肩の力を抜いた。
安堵した彼を見て、私は声を掛ける。
「あぁ、それにしても暑かったでしょう、日陰で休みな。」
「いいんですか。」
部下は体を少しすくめこちらの表情を伺ってくる。私は食べ続けながら返事をする。
「あぁ、暑いからな。」
「ありがとうございます。」
一つのパラソルの下、尻尾を振っている子犬のように笑顔になった部下は私から距離を置いて座る。するとさっきよりもしょっぱさを含んだ空気が辺りに充満する。なんだろうか、少しスプーンが止まる感覚がした。私はどうしたものだろうかと少し考え、海を指さした。
「あぁ、あと海にも入っていいよ。」
私はそう言って彼の方を遅れて見た。
「本当ですか!」
先ほどよりも目が輝いているのがよく分かる。口元も喜びを隠すことはできないようだ。
「ありがとうございます。良かったら一緒に先輩も泳ぎませんか?」
部下は汗だくのシャツを脱ぎ捨てながら言った。
「あぁ、私は肌を焼きたくはないかな。」
「あ、っすみません。」
私は少しはにかんだ。そして部下は少し気まずそうな顔をした。
「あぁ、大丈夫だよ。誘ってくれてありがとう。」
私が笑顔で言うと部下の表情はすぐ元通りになった。
「じゃぁ、行ってきます。」
「あぁ、行ってきな。」
彼は野原を駆ける子犬のように勢いよく笑顔で海に走っていく。そして海にダイブした。遠くで痛ーいと叫び声がしたのは、気のせいだろう。再び波が潮風を運んできた。私はほっと一息つき、再びかき氷を食べ始めた。視界の端で人一倍水飛沫を出しながら泳ぐ部下を見て、私は忘れていたことを思い出した。
「あぁ、
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