遊んで暮らせる電脳地獄
錫石衛
第1話 しょせん俺はあいつらの中では存在しないただの豚
破けた写真がばらまかれている。人の顔など識別できないほどにバラバラになったその紙々は、暗く臭い部屋の中で一人の男の怒鳴り声とともに、その勢いで少し吹き飛んだ。
「ふざけんじゃねえよ」
拳の手形が何個もついた卒業アルバムの表紙を殴る小太りで
「誰が______誰が存在しないただの豚だよ?」
雪が所々積もっている所を道端の住民が雪かきに励んでいる。シャベルがガリガリと雪を削る中、スーツに着替えた一義は一人で歩いていた。彼にとっては久しぶりに帰った地元だ。だが、その思い出は美とは程遠いものであった。小学生の中盤から仲の良かった親友と絶交し、そこから先はいじめを受け続ける。母親の説得が無ければ行かなかったであろうこの式。だが、彼は外出を自粛しなければならない日々から抜け出したタイミングでの外の空気にちょっとした爽快感を感じていた。
「この道、通るのいつぶりだっけな。あの頃はよくいっちゃんと......いや、あいつとは絶交したんだったな......」
内に秘めるトラウマを隠して一義は歩き続ける。その間、一義は何人か見たことのある顔を見たが、人違いであるかのようにスルーされていた。そのあまりの多さに彼は違和感を感じるが、式場に着いた時にそれは彼が目を背けたくなる現実に変わった。一義の同級生が集まる場所で一斉に虫けら同然に扱うかのような視線を浴びた。
「お、おう。ここが椿芽のグループか?」
「誰だよこの豚?」
「ええ、知らないよ。多分間違えたんじゃない? こんな奴知らないし」
「きっと来るところ間違えたんだ。存在しないただの豚が。迷子で可愛そうに」
ここで一義はこの場にいる全員から悪意を感じた。椿芽小学校及び、椿芽中等教育学校は、ほとんどが同じメンバーで通っていた。彼は質問した後、冷ややかな暴言を吐かれ続けた。いじめていた人間も、助けたことがあった人間も全員が、佐々木一義という人間を見下し、嘲笑っていた。そんな場にいられなくなり、一義は怒鳴り逃げ出した。
「ざけんな!!」
小太りのスーツで締め付けられた体に涙が染みていく。後ろからは深追いはされない。それが、逆に彼を苦しめる。まるで存在そのものがないかのような扱いに、いじめられていた頃とは少し違う苦痛を味わっていた。
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