[聖なる罪人たち] 危険度100%信頼度0% 前科持ちパーティーが行く

マリームー飯田

第1話

暗黒大陸調査開始初日


「エルネス!あいつを撃ち落とせるか?」

リーダーの声が森に響いた。


「任せろ!」

俺――エルネス・アルファラールは木の枝に腰を下ろし、杖を弓のように構えた。チビで金髪の魔術師。王立大学を飛び級で合格してる。まぁ、魔術は得意だ。


狙いは上空を旋回する鳥型の魔物。爪も嘴も鋭く、しかも集団行動を好む厄介なやつだ。


「こんなやつ、光の矢で一撃だ!」

杖から光の矢が生まれ、唸りを上げて飛んだ。見事に命中し、魔物はバランスを崩す。


「よし!」と思った瞬間、まだ息があるそいつが急降下してきた。


「え、ちょっ、近っ――」


ドゴッ!


俺の前に飛び込んできた長身の影が、そのまま魔物を叩き落とした。


「お前、詰めが甘ぇぞ。」

軽口を叩きながら金髪をかき上げたのは、ルーク・イエレナ。背丈は二メートル近く、全身が筋肉の塊みたいな剣士だ。多分、貴族出身。チャラいが腕は確かだ。


「サンキュー……って、やっぱお前やるな」


「そうだろ。」ニヤッと笑いやがる。


「マリア、仕上げだ!」

リーダーの声に応えたのは、神官のマリア・ダフネ。金髪の美女で豊満な体つき――なんだが、手にしているのは祈りの杖ではなく巨大な戦斧。


「せぇぇいっ!」

ドガァン!!

魔物の頭が一撃で粉砕され、森が静まり返った。


「おいマリア、さっきから神官らしくないぞ。」ルークが笑う。


「神の加護は形を選ばないのよ。」とマリアは斧を肩に担ぎ、涼しい顔をした。



「さて……落ち着いたし、改めて自己紹介でもするか。」

リーダーのアルドラ・シュタッドが腕を組む。身長二メートル二十センチ、岩のような体躯に渋い声。見た目通りの頼れる男だ。


国から渡された事前資料には、互いの名前と職業しか書かれていなかった。立場も家柄も年齢も不明。だから、こうして顔を合わせた時点でようやく「初めまして」状態だ。


「アルドラ・シュタッドだ。この隊の指揮を任されてる。剣士だ。」


「マリア・ダフネ。神官よ。斧も使うけど。」


「ルーク・イエレナ。アルドラと同じく剣士。腕っぷしには自信あり。」


「エルネス・アルファラール。魔術師。よろしく頼む。」


これが俺たち四人の、新大陸調査隊のはじまりだった。


俺たちは今、暗黒大陸と呼ばれる未踏の地に足を踏み入れている。この大陸は古の時代から人の手がほとんど及んでおらず、地図にもわずかしか載っていない。生態系は既存の常識を超え、凶暴な魔物や未解明の魔法現象が頻発する。


既知の大地の涯て、細き陸の鎖の向こう――霧と嵐に覆われ、長らく人類が到達を諦めていた広大な大陸だ。そこに何があるのかは誰も知らない。


森は昼間でも薄暗く、地面はぬかるみ、空を飛ぶ魔物も地を這う獣も、俺たちが見たことのない姿をしている。


毒や病気も、既知のものとは限らない。ひとたび油断すれば、たとえ熟練の戦士でも帰らぬ人となるだろう。


そんな危険地帯の調査は、単なる冒険心や個人的な栄誉のためじゃない。国の威信をかけた一大プロジェクトだ。


新たな資源、新たな交易路、そして未知の脅威――そのすべてを最初に発見し、掌握することは、国の未来を左右する。


俺たち四人は、その先遣隊として選ばれた。正式な部隊が派遣される前に、道を拓き、危険を記録し、拠点を築く。言ってしまえば、俺たちは人柱であり、切り込み隊長だ。成功すれば英雄、失敗すれば骨も残らない。


だからこそ、この顔ぶれで最後まで生き延びられるかどうかは、俺たち次第だ。

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