恋慕と墓参

山の下馳夫

第1話 いつも通りの反応

 高校生ともなれば、日々恋愛に関する話題を振られるものだ。こちらとしては辟易するのだが、友人関係を円満にするためには、あまり無下にもできないのが困りものである。

 今日、親友の凛に『嫌いじゃない男子の特徴』を聞かれたので嫌な予感はしていたが、部活終わりに彼女に呼ばれてスタバに行くと、凛とその彼氏、そして彼氏の友人とやらがいて、いきなり四人で歓談することになった。

「騙された……」

 と小さく呟き、名前もろくに知らない男子に奢ってもらったフラペチーノをカウンターで待ちながら、凛を睨んだ。

 彼女は間違いなく親友と呼べる対象だが、彼氏ができる度に、幸福を分け与えてこようとする悪癖があった。

「桜、突然呼び出してごめんね、ほら、前に話した悠斗君」

 凛の彼氏の友達(悠斗君というらしい)は、凛の彼氏とは違ってそれほどチャラい感じではなかったが、かといって好印象を抱くほどでもなかった。顔は悪くないが、今サッカーを頑張っていると得意げに語った割には、高校二年生の冬にナンパとも合コンともつかない行為に勤しんでいることを考えると、彼が語る頑張りを信じる気にはなれなかった。

 とはいえ、自費では注文を躊躇する冬のフラペチーノを堪能させてもらった手前、多少は話を聞かねばなるまいと、彼の話には適当に愛想よく相槌をうつことにした。私のその反応をどう解釈したのか、凛の彼氏が、私に『好きな男性のタイプ』に関し質問してきた。


 凛はこれから起こることを察し、凛の彼氏の言葉を遮ろうとも、私の方を見て反応を伺ったようにも見えたが、完全に手遅れであった。私には、この手の質問をされると、すっかり自制心を失くして、ある男性への情熱を語ってしまう悪癖があった。

「好みのタイプ……やっぱり、田中一村様かなあ。みんな、知っているとは思うけど――」

 自分でも、自分の声色が変化するのがわかった。これから始まる会話を録画し、後ほど自分で見返してみたら、その気色の悪さに慄く自覚はあるのだが、好機を得た今、語らないわけにもいかないのである。

 田中一村、私が住む栃木市が生んだ希代の天才画家である。生前は芸術家として評価に恵まれたとは言えない生活を送っており、死後に開催された遺作展とテレビ番組による紹介をきっかけに、ようやくその画業が正当に評価されるようになった。

 近年では、首都近郊で企画展が数多く開催され、その都度メディアに取り上げられることで、知名度を増し、美術ファン以外にも知られるに至った。私もまた、知った時期としては「にわかファン」の一人だったが、熱意は往年の愛好者にも負けない自負がある。

「――それで一村様は、千葉から奄美に移住することになるんだけど、奄美の自然をテーマにして、数々の傑作を生むことになるんだよね。あ、この時期の作品なら検索すればすぐ出てくるけど、先月まで東京都美術館でやっていた回顧展で買ったグッズが――」

 四人の会話は、私の独擅場になってしまっていた。悠斗君とやらは、最初のうちは、テレビで見たことがあるかもとか、一村の写真を見て「イケオジだね」などと何とかこちらの会話に理解を示そうとしてきたが、私が手持ちのミュージアムグッズを机に並べ、一村の制作スタイルについて語ると、さすがにその顔にも呆れの色が浮かんできた。

「あ、もうこんな時間。私そろそろ夕飯だから帰るね……ご馳走様でした」

 男子二人の顔に疲弊が見えたこともあり、私はすんなり帰ることができた。一応お礼は言ったが、多分悠斗君とやらも私への興味を失ってくれたことだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る