第4話

「うぇ〜ん。ひっくひっく」


「泣くなって! にいちゃんはお前を置いていかないよ。大丈夫だから、安心しろって!」


 大泣きし始めた弟の背を軽く叩きながら、「大丈夫だ」と言い聞かせる。軽い冗談のつもりで言った言葉が、泣かせることになるとは思ってもいなかった。


 数分が経っただろうか。やっと弟が泣き止んだ。泣いて真っ赤になった目が痛々しい。すぐに冷やしてやりたいが、保冷剤などは持っていない。帰ったら冷やしてやらねば。


「よしよし、ほら。喉が渇いたんじゃないか? 飲め飲め」


 弟の水筒を持ち上げて、残りの量を確認する。まだ余裕がありそうでよかった。


「喉がカラカラだよ……」


「そりゃ、あんだけ大泣きしたんだからな。ほらよ」


 水筒の蓋を開けて渡す。


「ありがとー。ごくごくっ、ぷは〜っ! 生き返る〜!」


 喉が渇いていた弟は、喉を鳴らしながら豪快に水筒の中身を飲み始めた。その姿はまるで……。


「なんかお前…… おっさんみたいだぞ? 仕事終わりにビールを飲んでるみたいな?」


「えっ? それはちょっと……」


「なんか嫌だな」とブツブツ言いながら、弟は先ほどの豪快な飲み方ではなく、ゆっくりちびちびと飲みだした。「その飲み方もおっさんみたいだ」とは、言わないでおこう。


 弟の様子を見て、そろそろ出発してもよさそうだと判断する。


「そろそろ行くか。暗くなる前に家に帰りたいし、何より森の中は危ないからな。帰ったら、ゆっくり休もうか」


 自分も水分補給をして、体を軽く動かす。慣れない道を歩いてきて、普段使わない部分を動かしたせいか、絶対に筋肉痛になるなと、嫌な確信を持ってしまった。


「暗い森って、なんだか怖いよね。僕はもう大丈夫だから、行こう!」


「道は?」


「あっち! あと少しみたいだから、にいちゃん頑張って!」


「わかってるよ。お前も帰る体力は残しておけよ」


「疲れたら、にいちゃんがおぶって……」


「やらない」


「えぇ〜。ケチ」


「じゃないからな。歩きづらいし、にいちゃんも疲れてるんだ。お前をおぶって転んだらヤバいだろ?」


「痛そう。僕、ひとりで歩けるよ。体力もちゃんと残すよ」


「走るのはやめとくね」と転んだ想像をしたのか、顔を若干青くした弟が歩き始める。さて、俺もあとちょっとみたいだし、頑張ろう。





 家を出てから、どれくらいかかっただろう? 最後の目印の木を見つけて、あとは宝の場所のみになった。


 道中、自分の背丈と変わらない草の中を歩くことになるとは思わなかった。背丈のある草をかき分けながら歩くのはきつかったし、あの元気な弟も、進むのに苦戦していた。あいつ、俺よりも背が低いもんな。途中で俺の後ろを進んだ方がいいことに気づいてからは、少しはましになったみたいだが。


「にいちゃん! もうすぐかな? 最後の目印は通り過ぎたし、残っているのは宝物の場所だけだよ!」


「そうだな。やっと終わりが見えてきた……」


 真夏に外に出るなんて、いくら森に日陰があるとはいえしたくはない。短時間ならまだしも、山の中を歩き回るのなんてもう二度とごめんだ。


 苦労してここまで来たんだ。弟と、ついでに俺のためにも、お宝らしい何かがあってほしいものだ。

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