『指鳴らすの、ちょっと待ちなよ』
宮本 賢治
【プロローグ·式神】
東京ドーム。
屋内の会場としては、国内最大の収容人数。今日は50,000人の動員。
ライブもフィナーレ。
史上最強のアイドル。
相沢 レイラ。
ルックス、スタイル、歌声、ダンス。
どれもが完璧。
わたしの歌声は1/fゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)を持っている。
生体のリズムは基本的には1/fゆらぎをしている。この1/fゆらぎは快適性と関係があることが判明している。
人間の生体は五感を通して外界から1/fゆらぎを感知すると、生体リズムと共鳴し、自律神経が整えられ、精神が安定し、活力が湧くと考えられている
緑を感じさせる川のせせらぎ。
可愛らしい小鳥のさえずり。
秋の訪れを知らせる虫の羽音。
心地よくしてくれる音には、1/fゆらぎをしているものが多い。
だから、わたしの歌声は誰もが、癒やしを感じる。
50,000 人の想い。
念。
それは、すさまじい力。
人々の念や想い。
憧れ。羨望。願望。
晴れない念は溜まり、澱む。
澱んだ念は時に厄災を呼ぶ。
わたしの役目。
それは、その念を晴らすこと。
···この歌声で。
ライブを終え、会場にある別室へ向かう。
そこにいたのは、わたしのチーフマネージャー、加茂(かも)。
白いキャップにロンT、ダークスーツ。
彼がパチンと指を鳴らした。
その音とともにわたし、相沢 レイラは姿を消す。
代わりにヒラヒラと人形の紙が宙を舞い、床に落ちる。
式神。
古来より陰陽師は祭り事を取り仕切り、人々の念や想いによる厄災を祓ってきた。
加茂は現代に生きる最強の陰陽師。わたしは彼に使役された鬼神。人心から起こる悪行や善行を見定める役を務めるもの。
式神は、平時には式札(しきふだ)と呼ばれる和紙札の状態にあるものが、陰陽師の術法によって使用されるとき、使役意図に適った能力を具える鳥獣や異形の者へと自在に変身する。
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