第16話 食事は大事!

 アルシー宅は今日も元気に煙を吐いている、本日の色は紫だ。錬金術で発生する煙は一応無害らしいのだが、ロゼたちにはその話がどうにも信用できない。あまりにも毒々しい色をしているのだから当然だ。


「お邪魔しますわよ~」

「いらっしゃーい」

「何処にいるのか分かりません」


 部屋の上から七割に煙が満ちており、ロゼたちには床がちょびっとしか見えていない。当然ながら銀髪少女の姿など欠片も発見できない。二人は煙の中へと突入し、それぞれ窓を開けて煙を外へと逃がした。


「おー、良く見えるー」

「煙が無くなったんですから当たり前ですわ」


 煤で真っ黒なアルシーの顔をロゼはそこら辺にあった布で拭いてやる。


「何を作っていたのですか?」

火炎蜥蜴サラマンダーの心」

「は?」


 そういった宝石の名前ではない。錬金術師の少女は本気で魔物の心を作ろうとしたのだ。形など無いものを作ろうとしたのである。


「今回はしっぱい。次は成功させる」

「応援したい所ですけれど、作ろうとしているものが未知すぎますわ」


 一般的な物を作ろうとしているならば応援できる。しかしその道程が全く分からない、物質かどうか実体があるのかどうかも分からないものを作ろうというのを応援するのは中々に難しい話だ。


「ちゃんと食事は取っていますか?」

「食べてるよー」

「本当に?」

「そこ見て~」


 アルシーは机の上を指さす。そこにはパン屋の紙袋が散乱していた。食事を取っているというのは本当であるようだ。


 と判断するのは早計である。


「これ、この町のパン屋の袋ではありませんわ」

「ぎくり」


 各店の紙袋にはそれぞれ特徴がある。店名のサインが書かれているものもあれば、運びやすいように持ち手がある物も存在する。そんな中でアルシー宅にある紙袋はロゼが知らない形状で知らない店名が書かれているものであった。


「わざわざ錬金術で紙袋を作ってまで嘘までついて言う事を聞きませんか」

「だって、食事、めんどい」

「死にますよ?」


 研究に没頭する少女にとって食事は研究よりも優先順位が低い。そこらにある錬金術素材の中で食べられる物を適当に口に放り込めば、それで十分と考えているのである。


「これは、そろそろ最終手段に出なければなりませんわね」

「そうですね、お嬢様」

「え、え、なになに」


 遂に堪忍袋の緒が切れた二人は実力行使に打って出る。両者はアルシーが逃げられないように左右から接近し、困惑する彼女をしっかと捕獲して連れ去った。


 そして三人はロゼの家に到着した。


「さ、ここに座るのですわ」


 促されて強制されてアルシーは椅子に腰を下ろす。何をされるのか、とキョロキョロしている彼女の前にクラーラはある物を差し出した。


「……?」

「今日のお昼の残りです、というか初めから食べさせるために取っておきました」


 そう、ロゼとクラーラはアルシーを心配して、これからは食事を共にすると決めたのである。自分達よりもずっと若い彼女が食事を抜いているなど良い事であるはずがない、お隣さんとして改善させなければという思いからの行動であった。


「むぅ」


 有無を言わせない、という表情で二人から見つめられて渋々と言った様子でアルシーはシチューに手を付ける。面倒くさそうにカチャカチャと食器を鳴らし、彼女はちゃんと一食を腹の中に納めた。


「ごち」

「お粗末様ですわ」


 食べさせてもらったのだからお礼は言う。非常識であるがちゃんと一定の常識を少女は持っている。だからこそ、ロゼとクラーラは彼女を放っておけないのである。傍若無人で礼儀知らずな人間であったならば積極的に関わったりしない、しかしアルシーはそうでは無かったのだ。


 であれば二人から見れば可愛らしい少女でしかない。

 世話を焼きたいと考えるのも当たり前である。


「今後は少なくとも朝晩は食事時に呼びに行きますわ」

「ええ~」

「嫌そうな顔をしない、これは決定事項ですわ」


 ツンと額を指で突いてロゼはアルシーの不満を却下する。


「大したものは作れませんが、少なくとも今よりは健康的でしょう」

「大したものじゃないならいらないよ?」

「問答無用で食べてもらいます」


 笑顔でありながら強い圧力を見せつつ、クラーラは少女の発言を無視した。


 今後は食卓が少し賑やかになりそうである。

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