第14話 十文字の剣と赤の宝玉

「たーのもーーーーーうッ!!!」

「あら、ししょー」

「あっ、なんだよ。家の中じゃないのかよー」


 遊びマスター来襲。しかしロゼは家の中ではなく、すぐ近くの井戸の傍にいた。朝の日課の水汲みの最中である。町の中でも非常に環境が悪い場所にある家に住んでいるが、唯一の良い点はすぐ近くに井戸がある事だ。水汲みが非常に容易なのである。


「今日も遊びに来たんですの?」

「勿論だ!」


 ここにリューが来るのは遊びの為か、何かを自慢する時か、もしくは親から何らかのお裾分けを託された場合である。今回は一番回数が多いパターンでの訪問であった。


「今日はこれだ!」

「なんですの、それは」


 彼の手にあったのは十文字の謎の木製器具と、それに紐で繋がれた赤い木の球であった。球には一か所だけ、指一本分程度の直径の穴があけられている。


「これは剣玉だ!」

「けん、だま……?これまた聞いた事のない遊び道具ですわ」

「ふっふっふ~」


 年上のお姉さんの知らない事を自分は知っている、その優越感に少年は満足げだ。このようなやり取りは毎回行われている恒例行事である。


「どうやって遊ぶものなんですの?」

「よし、教えてやるぞ!」


 弟子の求めにししょーは応じる。

 十字の下部分を握った彼は少し腰を落とし、精神を集中させる。そして腕だけでなく足腰を使った動きで赤い球を上へと引き上げた。ふわりとそれは宙を舞う、と同時にリューは素早い手捌きで球の落下地点に十字を差し入れる。


「お、おおー!」

「ふっ、ざっとこんなもんだ!」


 何と赤い球の穴に十字の上部分がスポリと刺し嵌まったのだ。曲芸のようなその技にロゼは歓声を上げてパチパチと拍手を送った。リューは鼻高々である、実の所は失敗しなくて良かったという安堵の方が大きい。遊びマスターの彼をもってしても、剣玉の成功率は七割を切るのだ。


「さあ、やってみろ!」

「はいですわ!」


 ズイっと差し出された剣玉を受け取り、ロゼは未知の遊びに挑戦する。


「ほっ」


 腰を落として身体を使って球を引き上げる。

 赤玉が大きく宙を舞い、そして。


「あっ」


 十字の上部分に衝突してコンという音を立てる共に、紐に吊り下げられた状態に戻ってしまった。残念ながら失敗である。


「難しいだろ~」

「くっ、もう一度っ!」


 一度の失敗程度でロゼは折れない、果敢に再度挑戦だ。


「むむむ、惜しいっ」


 今度は入りそうになったが勢いが強すぎて球が横に飛んでいってしまった。大胆に攻めなければ球が良い位置まで浮き上がらず、しかし繊細に動かさなければ十字が穴に収まってくれない。正反対の技術を要求される遊びは中々に難しい。


「ふっ、まだまだだな」

「ししょー、今一度お手本を」

「よかろう!」


 剣玉を受け取り、リューは再度実演して見せる。

 しかし。


「あ」


 今度は失敗してしまった。

 それも仕方のない事、彼をもってしても成功率は五割を切るのだから。

 七割と言っていた?残念ながらそれは彼の自己申告の割合である。


 諦めずに数度か挑戦を繰り返すと何とか成功した。


「ど、どーだ!」

「す、凄いですわ~……」


 何とも微妙な空気がその場に流れる。成功すること自体が凄い事なのだが、自信満々で失敗するというのはこの上なく恥ずかしい事態だ。リューの顔は耳まで真っ赤で、焦った事によって生じた汗が額から滴っている。


 気を取り直してロゼたちは剣玉で遊ぶ。

 成功した失敗した、と結果に一喜一憂しながら楽しい時間を過ごしたのだった。


 ちなみに一番成功率が高かったのは。


「クラーラ、上手すぎですわっ」

「ズルだ、ズルしたんだ!」

「この遊びでズルも何も無いと思いますが……」


 ほぼ成功率百パーセントを叩き出したクラーラであった。

 元傭兵の技は伊達では無いのである。

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