第12話 れっつごー大釣果!
今日も朝日が昇る。
と同時にロゼとクラーラは家を出る。
その手には桶と竿があった。
「釣れると良いですわね~」
「そうですね、お嬢様」
釣りだ。
以前の遊びとしての蟹釣りではなく、ちゃんとした魚釣りである。釣果があればそれだけ食卓が豊かになる、竿を握る手にも力が入るというものだ。
川へと到着した二人は石の下に無限に存在する餌を確保し、それを針に付けて竿を振る。ポチャンと水に落ち、ウキ代わりの木の枝が水面から顔を出した。ぷかぷかと浮かぶそれをロゼとクラーラは眺める。
「さてさて、お魚さん、お越しくださいませ~」
うきうきとしながらロゼは水面の下のお客様に呼びかける。
「お嬢様、あまり騒いでは駄目ですよ」
「おっと、そうでしたわ」
クラーラに注意されて彼女はパッと口に手をやって塞いだ。魚が何を考えているのかはロゼたちには分からないが、少なくともギャーギャー騒いでいては寄り付かないであろうことは確実である。
川はサラサラと流れ、ウキは静かに漂う。
水面下では虫が魚を誘うように動いている事だろう。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「暇ですわね」
釣りは
「お嬢様、どうぞ」
「ありがとうですわ」
こんな事もあろうかとクラーラは飲み物と軽食を持ってきていた。ロゼはそれを受け取ってチビチビ飲み食いしながらウキの動きを見続ける。
「あっ、いま動い」
「ただの風ですよ」
「わ、分かってますわよ、ええ」
気付きは不発、メイドに言われて主は少し恥ずかしそうに飲み物を啜る。
青空に白い雲がゆっくりと流れていく。風に揺られた川辺の草花がさわさわと自然の曲を奏でる。少し離れた街道を荷馬車が行き、車輪が轍を作ってガタゴトと音を立てる。そして川の水が岸に当たってさぽさぽと鳴く。
静かであると同時に、この場所は音に満ちていた。人々が憩いの場として訪れるのも頷ける、とてもリラックスできる場所だ。時間がとてもゆっくりと流れている気がする。
空を行く鳥がピィーピィーと長い鳴き声を発する。それに呼応するようにずっと向こうの森からも同じ声がした。仲間の居場所を知った空を行く一羽は飛ぶ方向を森へと変えて飛んでいく。
ぱしゃん、と水面から魚が跳ねた。
「あっ、お魚さんがっ」
「跳ねただけですよ」
「それは見れば分かりますわっ。それよりもちゃんとお魚さんが居る事が分かりましたわ、これで釣れるのは確定ですわね!」
どこからその自信が出てくるのか。いるならば釣れる、それ自体は間違いではないだろう。ずぅっと糸を垂らしていればいつかは魚が掛かる、真理である。問題はそれが、十分後なのか一時間後なのか一年後なのか、だ。ロゼは随分と気の長い女なようである。
それから十分、やはりウキに変化は見られない。
「むぅぅ……釣れるのは間違いないというのに……」
「このままでは此処に根を張らねばならなくなりますね」
「くっ、
望み薄な願いをロゼは釣り竿から水中へ向かって投げかける。そんな事で釣れるならば漁師はみな失業してしまうだろう。当然ながらクラーラもそう思って、呆れの溜め息を吐く。
その時だった。
「っ!来ましたわ!そりゃぁ!!」
ウキが沈む、と同時にロゼは竿を引っ張り上げた。
糸の先には大物が掛かっている、大釣果だ!
「……また、会いましたわね」
そこには以前も釣り上げた亀がいた。器用に針を避けて虫に噛みついており、中々に賢い個体であるようだ。いや、真に聡いならば釣りあげられること自体が無いだろう。
「どうします、お嬢様。捌きますか?」
クラーラは慣れた動きでチャッと懐からナイフを出した。主から指示があれば一瞬の内に亀が肉に変わるのは間違いない。しかしロゼは首を横に振った。
「二度も会ったのは何かの定め、放してやりましょう」
いまだに虫に噛みつき続けている亀を掴んで引き剥がし、彼女はそれを川へと還してやる。餌を貰った亀はそそくさと川の深みへと消えていった。
「さあ、気を取り直して釣り再開ですわ!」
「では私も」
待機していたクラーラも竿を持ち、主と共に釣り糸を垂らす。
と、今度は投げ込むとほぼ同時にロゼのウキがザボンと水中に消えた。
「早速!」
驚きと喜びと共に彼女は釣り竿を引き上げる。
と。
「三度目ですね、どうしますか?」
「ぐぬぬ……」
先程解放してやった亀がそこに居た。
いい加減に肉に変えてやろうかという考えも起きたがグッと耐え、ロゼは三度亀を水底へと送り返す。もう二度と現れてくれるな、という呪詛と共に。
結局この日はクラーラが二匹釣り上げた反面、ロゼはボウズで終わったのだった。
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