第4話 髪と現実とこれからと
ロゼの髪は金の色。
サラサラで光沢がある美しい髪である。かつて社交界ではその長い髪が褒めそやされた事もある程。しかし今の彼女の髪は首辺りまでの長さしかなく、メリハリのある体形を無視すれば白面の貴公子のようにさえ見える。口調と比べると実にアンバランスだ。今の生活でケアするには金がかかり過ぎる、と何の未練も躊躇もなく自分でバッサリと切り捨てたのだ。
「また髪を伸ばす事は考えておられないのですか?ああ勿論、今よりも豊かになってからの事ですが」
クラーラは問う。彼女も長い髪のロゼが好きだった、神をモチーフにした絵画から出てきたような彼女が。しかし当の本人は顎に手を当てて唸る。
「そうですわねぇ……。正直を言うと今の髪形が楽で伸ばしたくないというのが本心ですわね」
「そうですか、ちょっと残念です」
「ふふ、残念がってくれてありがとう」
しょんぼりするクラーラの頭をロゼが撫でる。年齢では従者の方が上だが、精神性は主の方が上である。ちなみに背丈もロゼの方が結構高い、というよりもクラーラは一般的な女性よりも低身長だ。今の二人の様は姉と妹のようである。
「髪が短いと動きやすいですわ。だからクラーラもその髪型なのでしょう?」
「それはまあ、そうですね」
クラーラは自分の黒髪を触る。肩に掛からない程度の長さのそれは、傭兵時代から変わらない髪形だ。長い髪は動くに不便、戦う際には敵に掴まれてしまう可能性もある。色々な理由で彼女は髪をそれほど長くはしていないのである。
「
「そんな事はありません、断じて。傭兵の頃に何の手入れもしていなかったのでバサバサです」
「これがバサバサなどと言ったら、世の女性から石投げられますわよ」
自分の事は案外己では分からないものだ。クラーラは自分を低く見るきらいがあるが、決してそんな事は無いとロゼは思っている。彼女の黒髪には艶があり、手入れがされていなかった時期があるなど嘘のようだ。それを本人は価値無しと考えているのである、ロゼが同じ女性としては勿体ないと思うのも当然である。
「貴女こそ髪を伸ばしてみてはいかがかしら?結構似合うと思うのですけれど」
「いやいやいや、似合いません、似合うわけがありませんっ」
「私の言葉を信じられない、と?」
「あ、いや、そういうわけでは……」
主の言葉を強く否定する形となってしまった事に気付いてクラーラは口ごもる。
「あっはっは。ごめんなさい、ちょっと意地悪でしたわ」
「……もう、お嬢様」
困る彼女の様子にロゼは大笑い。対するクラーラはちょっと膨れている。
「そうですわ、一緒にお店に行きましょう!」
「突然どうしたのですか?」
急に話題が変わり、メイドは困惑する。
「髪を伸ばすのはどちらも嫌。なら髪飾りなどはどうかしら」
「それなら、まあ……」
「と言っても、お金はあまり有りませんからお店で見るだけですけれどね」
二人の生活は楽とは言いにくい。リューヌの町に来るまでに家から持ってきた貴金属は売り払い、着ていた衣服も売却して路銀に変えた。結果としてここに流れ着いた時点で持ち金は大分と減ってしまったのである。故に今は節約生活、清貧なる日常なのだ。
冷やかし目的での訪問はやや気が引けるが、装飾品店の店主とも顔見知りだ。嫌な顔をされたり追い出されたりはしないだろう。
「じゃあ行きましょうか」
「かしこまりました」
二人は家から出る。失くしたものは色々とあるが、そんな物よりもこれから得るものを考えた方が楽しい。そのために彼女達は行動するのだ。
より良く生き、笑って日々を過ごす。
今のロゼが願う日常とは、実に慎ましやかなのである。
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