第9話 - 姉と後輩と火花と
放課後の空は、夏の名残をわずかに残しつつ、もう秋の匂いをまとっていた。
薄橙の夕日が校舎の窓を染め、俺は鞄を肩にかけながら昇降口を出た。
「佐伯」
呼び止める声。
振り返れば、そこにいたのは天城莉音。
「ねえ、今日、帰り道一緒にして」
珍しい。普段なら用もなく話しかけてこないくせに。
「別にいいけど……」
返事をすると、彼女は少しだけ表情を和らげる。
が、その後ろから、まるで狙ったようなタイミングで声が飛んだ。
「佐伯先輩!」
振り向けば桃沢来理。
制服のリボンをきっちり結び、整った髪が西日で輝いている。
「先輩も今帰りですか? でしたら途中まで――」
「悪いけど、あんた、別の日にしてくれる?」
間髪入れず、天城が言った。
その声色は明らかに棘を含んでいる。
「……どうしてですか?」
来理の微笑は崩れない。だが、目の奥は鋭く光っていた。
「今日はあたしが先に誘ったから」
「先に誘えばいいんですか? じゃあ、次からはもっと早く誘います」
挑発するような一言に、天城の口角がピクリと動く。
俺は二人の視線の間で立ち尽くし、ため息をついた。
「お前ら……別に一緒に帰ればいいだろ」
「嫌」
「嫌です」
ほぼ同時。声まで被る。
俺がどう切り抜けようか考えていると、横合いから柔らかい声が響いた。
「まあまあ、喧嘩しないの」
振り向くと、そこに立っていたのは――桜子さん。
私服姿で、買い物袋を片手に笑っている。
「……さく...お姉ちゃん。」
天城が小さくつぶやく。
「莉音、もう帰るの?」
「……そうだけど」
「じゃあ私も一緒に帰ろうかな。佐伯くんも一緒でしょ?」
「え、俺ですか?」
「うん。前に挨拶できなかったから、改めて話したいし」
にこやかに微笑む桜子さんは、大学生らしい落ち着きと余裕を漂わせていた。
「天城さんのお姉さんなんですよね?」
来理が丁寧に頭を下げる。
「はい、天城桜子です。あなたは?」
「桃沢来理といいます。莉音とは同級生です」
「へぇ、莉音の友達?」
「……友達ではありません」
天城が即答する。
「ちょっと莉音、そんな言い方ないでしょ」
桜子さんが苦笑する横で、来理は涼しい顔で言葉を足す。
「ライバル……でしょうか」
「は?」
天城が来理を見る。その目は完全に戦闘モードだ。
「ライバルって、何の?」
「もちろん、佐伯先輩の――」
「ストップ!」
俺は慌てて両手を上げて制した。
「その話はもうやめろ。桜子さんも困ってるし」
「困ってないよ?」
桜子さんはさらりと流し、俺に向き直る。
「でも、こうやって二人の間に立たされてる佐伯くん、結構大変そうね」
「……まあ」
帰り道、結局四人で歩くことになった。
商店街に差し掛かると、桜子さんがふと立ち止まる。
「ちょっと買い忘れあったから、先に行ってて」
そう言って、彼女は店の中へ入っていく。
残された俺と、左右を固める天城と来理。
沈黙。いや、沈黙ではない。空気がピリついている。
「……あの子、やっぱり嫌い」
天城がぽつりと言う。
「その気持ち、お返しします」
来理の即答に、俺はもう笑うしかなかった。
こうして、俺の放課後はますます騒がしくなっていくのだった――。放課後の空は、夏の名残をわずかに残しつつ、もう秋の匂いをまとっていた。
薄橙の夕日が校舎の窓を染め、俺は鞄を肩にかけながら昇降口を出た。
「佐伯」
呼び止める声。
振り返れば、そこにいたのは天城莉音。
「ねえ、今日、帰り道一緒にして」
珍しい。普段なら用もなく話しかけてこないくせに。
「別にいいけど……」
返事をすると、彼女は少しだけ表情を和らげる。
が、その後ろから、まるで狙ったようなタイミングで声が飛んだ。
「佐伯先輩!」
振り向けば桃沢来理。
制服のリボンをきっちり結び、整った髪が西日で輝いている。
「先輩も今帰りですか? でしたら途中まで――」
「悪いけど、あんた、別の日にしてくれる?」
間髪入れず、天城が言った。
その声色は明らかに棘を含んでいる。
「……どうしてですか?」
来理の微笑は崩れない。だが、目の奥は鋭く光っていた。
「今日はあたしが先に誘ったから」
「先に誘えばいいんですか? じゃあ、次からはもっと早く誘います」
挑発するような一言に、天城の口角がピクリと動く。
俺は二人の視線の間で立ち尽くし、ため息をついた。
「お前ら……別に一緒に帰ればいいだろ」
「嫌」
「嫌です」
ほぼ同時。声まで被る。
俺がどう切り抜けようか考えていると、横合いから柔らかい声が響いた。
「まあまあ、喧嘩しないの」
振り向くと、そこに立っていたのは――桜子さん。
私服姿で、買い物袋を片手に笑っている。
「……桜子」
天城が小さくつぶやく。
「莉音、もう帰るの?」
「……そうだけど」
「じゃあ私も一緒に帰ろうかな。佐伯くんも一緒でしょ?」
「え、俺ですか?」
「うん。前に挨拶できなかったから、改めて話したいし」
にこやかに微笑む桜子さんは、大学生らしい落ち着きと余裕を漂わせていた。
「天城さんのお姉さんなんですよね?」
来理が丁寧に頭を下げる。
「はい、天城桜子です。あなたは?」
「桃沢来理といいます。莉音とは同級生です」
「へぇ、莉音の友達?」
「……友達ではありません」
天城が即答する。
「ちょっと莉音、そんな言い方ないでしょ」
桜子さんが苦笑する横で、来理は涼しい顔で言葉を足す。
「ライバル……でしょうか」
「は?」
天城が来理を見る。その目は完全に戦闘モードだ。
「ライバルって、何の?」
「もちろん、佐伯先輩の――」
「ストップ!」
俺は慌てて両手を上げて制した。
「その話はもうやめろ。桜子さんも困ってるし」
「困ってないよ?」
桜子さんはさらりと流し、俺に向き直る。
「でも、こうやって二人の間に立たされてる佐伯くん、結構大変そうね」
「……まあ」
帰り道、結局四人で歩くことになった。
商店街に差し掛かると、桜子さんがふと立ち止まる。
「ちょっと買い忘れあったから、先に行ってて」
そう言って、彼女は店の中へ入っていく。
残された俺と、左右を固める天城と来理。
沈黙。いや、沈黙ではない。空気がピリついている。
「……あの子、やっぱり嫌い」
天城がぽつりと言う。
「その気持ち、お返しします」
来理の即答に、俺はもう笑うしかなかった。
こうして、俺の放課後はますます騒がしくなっていくのだった――。
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