漫画の主人公に転生した、仕方ないからラスボスを助けようと思う
リオ
一章 七、八歳
第1話 初めまして
転生した。
ついさっき、そのことに気付いた。
そう、気付いたのだ。
蘇ったのではなく、思い出したでもない。
だってさっきまでなかったわけでも、ずっと忘れてたわけでもないのだから。
数秒前、通り過ぎようとした公園でポツンと座る子供を見た時、なんだか覚えのあるなぁと思ったのだ。
パッと見そんなに歳離れてなさそうだし、どっかで会ったことあるかなぁと思い出そうとして。
そのまま前世っていうべきところまでさかのぼっていた。
だからなんというか、別に前世が突然沸いてきたとか言うよりは、そういえばそんなことあったなぁって感じ。
思い出したというほど遠くはない、蘇ったというほど唐突でもない、そんな記憶。
ならばきっと、前世の俺、と言える人間の記憶の存在に気づいたという言葉が相応しいだろう。
否確かに、デジャヴって感じることは多かったものね。
そもそも誰に教わるでもなく、よく感じる既視感って奴をデジャブとか思ってたし。
思い返せば同世代の子よりは何をするのも早かった気がする、知ってたというアドバンテージは大きいのだな。
後はアレだ、俺は一般的に幼児期健忘と呼ばれるものもないようだ、記憶を遡ったらスムーズに赤ん坊の頃の記憶も親の腹の中にいた記憶も思い出せた。
どうやら俺は、前世の記憶も幼児期の記憶も忘れることなくここまで来ているらしい。
何故今まで気付かなかったのか。
我ながら鈍すぎやしないか。
マァそんな諸々を覚えてるからといって記憶力が特別いいわけじゃないんだよなぁ、残念。
さて本題。
別に前世の記憶があるからって、俺という人間が変わる訳じゃない。
そもそも前世の記憶を持ち越したまま、今日この瞬間まで生きてきたんだからマジ通り前世の延長線上に今世がある感じ。
けれど思い出した記憶から、ある問題を見つけてしまった。
どうやらここは漫画の世界で、しかも俺は主人公らしい。
やめてよ、知らん奴らの運命を背負う必要のある立場なんて、絶対に御免なんだけど。
***
ここは漫画の世界であるとは言ったが、どんな漫画であるのかも重要だ、ジャンルとか舞台とか。
極端な話、ホラー漫画の主人公と、ほのぼの日常系漫画の主人公とじゃ全然違うだろう。
それだけじゃない、例えば恋愛漫画でも大人向けか少女向けかでも内容が大分変わる。
物語の舞台だって、異世界か地球か。
異世界の中でも西洋寄りか、東洋寄りか。
地球でも現代か、過去か、未来か、あの世か。
兎に角漫画の物語というのは多種多様な世界で展開されている。
さて、では俺が生まれたこの漫画は世界はどんな世界なのかについて。
まずタイトルは『BRANK:S』だった、なんかいい感じのデザインの表紙とかポスターとかの記憶がある。
とある週刊誌に掲載されていたバトルモノの少年漫画。
人気があったし、アニメにもなってた。
前世の俺もアニメを見て、原作も楽しんで読んでた記憶がある。
舞台はいくらか未来の地球。
異能力バトル漫画の世界で、異能力が存在する近未来異能力バトルファンタジーって感じ。
けれどこの世界は地球が舞台である。
なので、地球を舞台に異能力ファンタジー要素を出すため、世界観設定の部分で色々いじっていた。
まずこの世界には前世と違いとあるエネルギーが存在する。
始まりは今から百年程前。
ある日空から不思議な隕石が落ちてきた。
半透明で薄っすらと色のついた、僅かに発光する、不思議な石。
大きさは小指の先程度の物もあれば、人間の身の丈を超えるほどの大きさのものまで。
ただの一般人の俺は見たことはないけど、原作ではそんな感じだった。
そんな不思議な石が世界の各地に落ちてきた瞬間から新しいエネルギーが誕生し、研究によると石の落下地点を中心として広まっていったらしい。
それまで存在しなかった力は、最初は僅かに、けれど瞬く間に世界中に広がる事となった。
新しいエネルギーに注目した世界はソレをエーテルと名付け、研究、エネルギー利用を進めた結果、技術の発展に大きな進歩が見られたとかなんとか。
そして、エーテルはただエネルギーとして利用するだけでなく、生物にも影響をもたらした。
エーテルの発生から暫く、人間がエーテルを持つようになり、エーテルを用いて発動する超常的な力、異能力を使える人間が出現し始めた。
それがこの世界における、異能力者誕生までの大まかな経緯である。
能力者誕生後も色々あった。
能力者がいれば非能力者もいて、二種類の人間がいたら当然のように争いを始めるのが人間ってワケだ。
争いを落ち着かせ、そこから更に規則や基準を決めたり、管理し取り締まる組織を作ったり。
あと単純に能力者関係なくエーテルの存在を不審に思ったり、反対したり、世界中で色々あった。
以上、今の俺の知識と、原作でさらっと説明されてた知識を合わせた簡単な説明。
けれどソレも昔の話、人間とは慣れる動物であり、今じゃ大抵の人間はエーテルの存在になれている。
というか、エーテル誕生からもう百年くらいたってるのだ、エーテルの無い生活を知らない人間の方が多い。
生まれた瞬間から身の回りにある存在に違和感は今更持たないだろう。
もしかしたら、これから成長して学校とかに通ったらここら辺の設定を近代史として学ぶことになるかもしれない。
時代が進むごとに歴史というのは増える、そして増えた分学ばないといけない。
嫌だなぁ。
***
さて説明した通りここは異能力バトルモノの少年漫画の世界。
つまりは、めっちゃ大変ってこと。
だってバトルモノだよ、詳しく説明しなくても何となくで分かるでしょ。
バトルものの少年漫画の主人公は大抵の場合ロクな目に遭わないんだよ。
なんせ一話で読者をひっかける必要があるから、デカい事件が降りかかってくるんだよ。
敵に襲われて大切な人が死んだり、宿敵と因縁が出来る事件が起こったり、家族との確執とか親の因果とか唐突な理不尽とか。
色々あるのが少年漫画だ。
そしてこの漫画の主人公も一話からそれなりに大変な目に遭っている。
まず冒頭、主人公の住んでいた街がラスボスにより壊滅するシーンから物語が始まる。
そこで泣いてる主人公が救われてなんやかんやストーリーが進むが、そこら辺のストーリーが始まるまであと十年以上あるからいいや。
ここで重要なのは主人公の住む街が壊滅することであり、俺はその漫画の主人公であり、まだまだ引っ越す予定は全然ないことだ。
つまり、このままだと俺は生まれ故郷を失うことになる。
原作では、その事件が起こったのは十年前の冬、主人公はストーリー開始時点で十八歳。
逆算して、八歳の冬に事件が起こる。
そして俺は現在七歳、季節は体の芯から冷えるような冬。
猶予は一年くらいかな。
気付いたら温かい我が家の玄関前だ、このまま扉を開けて寒空の下から逃げてしまいたいってのが正直な思い。
俺はそこまで正義感に溢れてたり、善性とか優しさとかの塊なわけじゃない。
根本的に甘ったれていて、めんどくさがりで、他人に対して薄情で、結構酷い人間だって自覚がある。
原作主人公だって根本的な所は変わらないだろう、俺は長く生きた記憶があるから自我が結構強固だけど、きっと彼も事件が起こらなければ俺みたいになっていた。
分かるのだ、だって俺だもの。
ため息が漏れる。
仕方ない、自分の住んでる街がぶっ壊れるのは御免だ。
今世の家族がいなくなるのは現状害しかない、引っ越しは説得する方法が思いつかないし、いい感じの理由もない。
ついでに、この街に住んでる他の人らも、見捨てるのは流石に寝覚めが悪い。
別に何かされたわけじゃないのに、この人たち一年後に死ぬんだよなぁと思いながら生活するのは、流石に気まずい。
一歩足を引いて、そのままくるりと家に背を向ける。
そのまま来た道を戻って、公園に向かう。
そこまで遠いわけでもないと分かっているのに、子供の歩幅だとものすごく遠いように感じる。
近所のコンビニに行くのだって子供にとっては遠出だ。
前世の記憶に気付いてから、子供と大人の感覚の違いからくる違和感も湧くようになった。
公園に辿り着いて、目当ての人物、記憶に気付くきっかけとなった子供を見つけて近寄る。
「ねぇ、寒くないの?」
声を掛けた。
顔を上げたその子供は、不思議そうに俺を見つめてくる。
初対面の相手にかける言葉として可笑しいだろうか。
マァ子供だからこんなもんかな。
だってホラ、俺がマフラーに手袋にコートにと防寒してても寒さを感じるのに、目の前の子供は長袖長ズボンだけでベンチに座ってる、とっても寒そうだろう。
なのに返ってきたのは不思議そうな表情だけ。
首を縦か横に振るという簡単なリアクションすらない。
さて、ではこのぼんやりとしている少年が、どうして俺の前世の記憶を刺激したのか。
そしてどうして街の壊滅回避を決めた俺が接触したのかについてだけど。
理由は簡単、この少年こそが街を滅ぼし住民をほぼほぼ皆殺しにし、更には物語本編でラスボスとなる人間だからだ。
ぼさぼさの黒い髪、白いというか青ざめてる肌、ぼんやりとした黒い目。
寒空の下薄そうな長袖と長ズボンだけで、膝を抱え、白い息を吐きながらぼんやり座っている。
原作で見た過去編の通りの姿は、前世で漫画読んでた時も思ったけどラスボスらしさは全然ない。
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