第九話 王者の蜂

***


「今頃秋、どうしてるかなぁ」


陽は西に傾いて、夕暮れが近づいてきていた。私は自分でも意識していない内に、ふとそんなことを呟いた。

隣のカノンに聞かれていないか心配したが、よかった。聞かれていなかったようだ。


「やっぱりジメジメしてますね。北エリアはその多くが湿地になっていますし」


「う、うん、そうね」


私は上の空で答えた。


「友奈、どうかしたんですか?なんだか顔が赤いようですけど……」


「な、なんでもないっ!!」


私は杖をギュッと握る。


――違う。別に秋が恋しいわけじゃない。

ただ、秋が心配なだけで――。


カノンが私の方を心配そうに見てくる。

そして少し笑って彼女は言った。


「今日はここらへんで休憩にしましょうか」


残り時間:36:12:42


***


夜。私達は地面が湿っていない場所を選んで野宿することにした。焚き火の準備も、この世界に来てからできるようになった技術の一つだ。すると、カノンが思いついたように言った。


「ユウナは、アキのことが好きなのですか?」


沈黙。…………。


「ええっ!?」


突然の質問に焦って火炎魔法。

焚き火がものすごい勢いで燃え始める。


「そ、それってどういう……」


「え?だって、アキはユウナのことを好いてますよね。だったら、ユウナはどうなのかのと」  


――いや、秋はそんなんじゃないと思うけど……。秋は多分、冗談を言っているだけなんだろう。本当は私のこと、そんなに想ってくれてなんか――。


「だって、こないだアキ本人が言ってたんですよ」


沈黙。…………。


「ええっ!?」 


カノンはそんな私の様子を見ながら言う。


「でも私、アキのこと、好きですけどね」


沈黙。…………。


「ええっ!?その好きってどういう意味!?恋愛的な!?」


思わず変な質問をしてしまう。


――こんな質問、私が秋のことを好きと思ってるみたいじゃない……。


「もちろん、恋愛的な意味です!秋、優しいですし!」


カノンがドヤァと自慢げな顔で言う。


「ええええ!?なんでなんで!?駄目よ!絶対に!!」


「なんでって、優しいからですよ。それにそんなに焦ってユウナ、どうしたんですか?もしかしてユウナも……」


カノンがニヤニヤしながらこっちを見る。

顔が赤くなるのが自分でも分かった。


「ち、違うし違うしッ!秋なんて気にもしてないんだからっ!」


「ユウナはツンデレですね~……」


「もうっ、違うから〜!!」


口ではそう言ってるのに、なんでか胸の中がモヤモヤする。その様子を見てカノンがやれやれ、と肩をすくめて、


「冗談ですよ、アキが好きなのは本当ですけど、それは親愛的な意味ですよ。もちろん、ユウナも大好きですよ!だから、安心してくださいね」


「あ、安心って……。もう、カノンのいじわる……」


「アハハ、ごめんなさい。ついからかってみたくなって」


カノンは笑いながら、ほんの、ほんの少しだけ、悲しげな顔をしていた気がした。そして、


「お兄ちゃん……」


小さく、そう呟いていた――そんな気がした。


残り時間:34:21:23


***


「第2フロアのボスはアキから聞いた話によると蜂型のモンスターで毒による攻撃が強力とのことです。モンスター名は王者の蜂、【ハニー・レギオン】です」


「……で、これを登るの……?」


私達の目の前には巨大も巨大、現実のビルくらいの大きさの樹がある。そして、その樹の枝にはこれまた巨大な蜂の巣がついている。


フロアボスはここにいるようだ。私達はこの樹を、24時間、一日で登りきり、ボスを倒さないといけないのだ。


そのとき――樹の頂上近くにほんの一瞬、人影が見えた気がした。


――いや、勘違いね。


「仕方ない……急ごう。カノン」


「ええ、必ず、倒しましょう」


残り時間:24:02:36

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