災厄の男(※ただの一般人)

@kakugaku

カスミソウ

プロローグ

プロローグ


「おい、たかし。このアニメ知ってるか?」


 放課後――俺は斎藤たかしは教室に残りながら悪友と喋りながら時間を潰していた。そしたら突然、悪友がスマホの画面を突きつけてきた。表示されていたのは、どこかで聞いたような、けどちゃんとは知らないタイトルだった。


『愛から始まる物語』


「んー?悪い、聞いたことはあるんだけどよく知らないな」


 俺の言葉に、悪友――田島が信じられないものを見る目でこっちを見てきた。


「マジかよ!?面白いから絶対に見た方がいいって!」

「いやー時間なくてさ。最近はバイトばっかで、家帰ったら風呂入ってご飯食べて寝るだけって感じ」

「人生損してんなお前……」


 そこまで言うか?

 

「なら、尚更見て欲しいわ。めちゃくちゃ面白いから特にカガリって言う一期の悪役なんだけど――」

「ちょっと待て!ネタバレはしないでくれよ?」

「大丈夫だって、まだ全然序盤の話だから!で、そのカガリってやつがさ、普通にやべーやつで、めっちゃ強くて……」

「強い悪役?」

「強いなんてもんじゃないぞ!マジであいつ倒せるのとか5人ぐらいしかいねぇから!」


 まぁまぁ居るな


「でもなんで、そんなに強い奴がいるのに主人公は勝てたんだ?」

「そりゃあ、主人公は選ばれし者だからな!その秘密とかもアニメの見どころだって」


 そう言う田島は、ちょっとした優越感を滲ませながら得意げに笑っていた。

 

「なるほど……気になったし、家帰ったら見てみようかな」

「よし、それでいい!」


 田島は満足そうにスマホをしまい、帰り支度を始めた。


 俺も荷物をまとめ、二人で教室を出た。


 

 

 帰宅後、俺は田島の言葉がやけに頭に残っていたのもあって、夕飯もそこそこにして動画配信サイトを開いた。


『愛から始まる物語』


 調べればすぐに出てきた。全12話、一気に見るにはちょっと多いが……まあ、少しくらいなら。


 ――そのつもりだった。


 気づけば、夜はとっくに更けていた。


 スマホの時計は午前3時を指していた。


「……マジかよ、全部見ちゃった」


 面白かった。


 いや、めちゃくちゃ面白かった。


 最初はよくある異能系のファンタジーかと思っていたのに、話が進むごとにキャラたちの感情や背景が丁寧に掘り下げられていく。異形と呼ばれる怪物との戦闘シーンも迫力あって、テンポもいい。


 そしてなにより田島の言っていた――カガリ。


「……確かにすごかったな」


 作中初めて登場するのは中盤でその呼び名が“災厄の男”。世界を捻じ曲げる存在。けど、その力の裏には壮絶な過去と、抑えようとしても滲み出る哀しみがあった。


 殺すことも、殺されることも望んでいない。

 ただ、世界に拒まれ、拒絶し返しただけの存在。


 田島のテンションも納得だった。


 アニメの最終話、主人公とカガリが激突するシーンは、まさに圧巻だった。

 

 けれど、あの戦いはただの暴力ではなかった。

 互いの“心”がぶつかり合う、決着の場だった。


『――なぁ、カガリ。お前はこれを本当に望んでいたのか?』


 カガリの異能の前に、何度倒れようとも、主人公は立ち上がる。

 そして叫ぶ。


『……カガリ』

『――うるせェ。お前に、オレの何が分カる』


 歯を食いしばってカガリが答える。


『オレは、壊す為に生まれてキたんだ。……だから、オレの邪魔する奴を壊す、世界を壊す。……オレはオレのやり方でこの世界をぶち壊す……!』

『……本当にそうか?……壊す以外の生きた方をお前は……カガリは知っているんじゃないのか?』


 その言葉に、カガリは初めて――怯えるような顔を見せた。


『ふざけんな……そんなの、オレの役じゃねェんだよ……!』


 最後の一撃が交差し、光が爆ぜる。

 戦いが終わったとき、主人公は倒れていた。


 そして、カガリは静かに立ち去っていく。

 誰にも看取られず、誰にも追われず、ただ――自らの意志で。


『そんなに悪ィカよ……コの生キ方は』


 その背中に、主人公の手は届かなかった。


 ――けれど、その言葉を、視聴者の俺たちは聞いた。


「……マジかよ、そんな終わり方って……」


 胸の奥が、ギリギリと痛む。


 あれだけのことをして、それでもなお、主人公はカガリに対して理解しようとしていたのだ。


 そしてカガリも、分かっていたのかもしれない。その生き方の間違いを。


「……めちゃくちゃ面白かったな」


 気づけば俺は、『愛から始まる物語』にどっぷり浸かっていた。



 

 翌朝、登校して早々に田島のところへ向かう。


「田島ー!昨日のアレ全部見たぞ!」


 そう言った瞬間、田島の顔がパァッと明るくなった。


「マジかよ!?どこまで見た!?どうだったよ!?」

「とりあえず一期のラストまで。……いやぁ、すげぇ良かった!マジで止まんなかった!!」

「だろ!? 特にカガリとかヤバくね? あいつ出てきたあたりからずっと心臓バクバクだったもん俺」

「あぁ、マジでわかるわ!……けど、カガリも確かに印象深かったけど……」

「けど?」

「……俺はやっぱ、主人公だな!」


 田島が一瞬きょとんとした顔になった。


「カガリもいいキャラしてたけどさ。俺は……ああいうのに立ち向かえる主人公が、めちゃくちゃ良かったな!」

「……へぇ」


 田島は珍しく、言葉少なにうなずいた。


「……主人公推しになってしまったか」

「なんだ?その含みのある言い方」


 俺が眉をひそめて聞き返すと、田島は少しだけニヤリと笑って言った。


「いやぁ、最終回まで見た時のたかしの反応が楽しみなっちゃってな」

「…怖い言い方するなよ!……あっ、そう言えばこのアニメって何期まであるんだ?」


 そう聞くと、田島はちょっとだけ間を置いて、妙に意味ありげな顔で答えた。


「とりあえず本編は四期まで。……で、二期でカガリの章が終わる感じ」


 田島の言葉に、俺は思わず聞き返した。


「終わるって……まさか、死ぬのか?」

「……それは見てのお楽しみだな。でも、ひとつだけ言えるのは、二期ラスト見たら絶対こう言うと思うぞ?」


 田島はどこか誇らしげにこう言った。


「“カガリって、ただの悪役じゃなかったんだな”ってな」


 その言葉に、胸の奥がズンと重くなる。


 一期を見た時のあの哀しげな背中。あれが、ただの“悪”で終わるはずがないと、俺もどこかで思っていた。


「……めちゃくちゃ気になる言い方するなぁ!」


 田島はにやりと笑いながら、少しだけ視線を外して言った。


「だって、たかし――お前、もう“戻れない”だろ?」

「……そのホラー映画で使われそうな言葉を使うのやめろよ」

「いや、マジで。俺もそうだったから分かるんだよ。あの一期見た直後のテンションで、二期に入ったら……終わるから。いろいろな意味で」

「もうお前の頭は終わってそうだけどな」


 そう言った瞬間、後ろから思いっきり頭を叩かれた。そして、叩いたことをまるで無かったかのように無視して、田島は続けた。


「カガリの章は、“始まり”でもあるんだ。物語の深いところ――見えなかった地獄とか、希望とか、そういうのが全部詰まってる。マジで心臓えぐられるぞ」

「……痛てぇ……けどそれ、楽しみ方として正しいのか?」

「正しいんだよ、だってそれが『愛から始まる物語』なんだから」


 田島はスマホを取り出して、画面をこちらに向けて見せる。そこには続編、二期の第一話が表示されていた。


 タイトルはこうだった。


『第二章:災厄の胎動』


「……見るしかないよなぁ!このビックウェーブに!」


 教室でそう叫んだら先生に怒られた。


 

 その日の夜。


 俺は、夕飯も風呂も最速で済ませ、スマホを手にベッドへダイブした。


「ついに……二期か……!」


 目の前には、配信サイトの再生画面。

 表示されたタイトルは――


『第二章:災厄の胎動』


 田島の言葉が、また蘇る。


『マジで心臓えぐられるぞ』


 ――ああ、なんかもう怖い。でも見たい。


 俺は息を飲み、ベットに横になりながら再生ボタンを押した。


 始まった映像は、暗く不穏な雰囲気。

 焼け落ちた都市。

 崩れた空。

 そこで、フードを被った一人の男が、背を向けて立っていた。


(早速出るのか……!)


 鼓動が跳ねる。

 始まる。あの男の物語が、再び。


 そのとき、まぶたがじんわりと重くなった。


(……あれ?)


 昨日の夜更かしが、じわじわ効いてくる。俺は自分の腹を叩きながら眠気を誤魔化そうとするも瞼が徐々に下がって行く。

 でも、俺はまだ見ていない。まだ、カガリの物語が――


 (ダメだ……落ちる……)


 意識が沈んでいく。

 映像の中の火の粉が、目の奥で揺れて――

 そうして俺の意識は無くなった。


 * * *


 (……くっそぉ!寝ちまった!見れなかったかぁ……!)


 ぼんやりとした思考の中で、俺は悔しさを噛み締めていた。せっかく楽しみにしてた『愛から始まる物語』二期の第一話、再生ボタンを押したまでは覚えてる。あの『第二章:災厄の胎動』のタイトルロゴが出て、火の粉が舞うような導入が始まった――その時点で、記憶が途切れてる。


(最悪だ……ネタバレされる前に絶対見ようと思ってたのに……)


 体が重い。目も開けられない。夢の中にまだ囚われているような、どこか現実味のない浮遊感。


 それでも、どうにか目を開けようと、まぶたに力を込め――


 ――強烈な、風の音。


 まるで山の上か、高層ビルの屋上か。何かが吹き抜けるような音が、耳の奥で鳴っている。


 (……風?)


 おかしい。寝落ちしたのは部屋の中のはずだ。こんな風の音なんてするわけが――


「……ドコだ、ココ」


 目を開けると、そこは――崩壊した街の上空だった。


 ビルの屋上。だが、そこはもはや建物というより、崩れかけた鉄骨の山。風が吹き荒れ、地上では黒煙が上がっている。


 こうして俺の物語は、今、まったく知らない場所で、まったく知らない幕を開けたのだった。

 

 

 

 

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