第12話
「あの…、パパさんって…どなたなんですか…」
「僕です」
少年はしおしおにしぼみながら、質問を続けた。それを聞いて何をどうすることも出来ないが、止まらなかった。
すると背後から突然、近衛兵姿の大柄な男が返事をしてきた。どこから入ってきたのかもわからないが、そういえばさっきから使い魔の大鷲の姿が見えない。
「…?!、まさか、鳥に変身できる魔族の使い魔…?!」
「惜しい、逆なんです。僕は本来が鳥型で、人間型に化けられる魔族でして」
「驚かせてはダメよ、アル」
飛び上がる少年と、丁寧に説明する青年、それをたしなめる女房の姿があった。
「わたしが小さい頃、庭に落ちてた雛鳥を拾って育てたらこうなったの」
「人間型に変化できるようにならなければ風切り羽を毟ると脅されたんです」
「黙りなさいアルタイル」
「大変申し訳ございません我が主」
アウロラの思い出話に真実が見え隠れすると、飼い主は真名をちらつかせた。脅すような声音でないことが、かえって恐怖心を煽った。
互いに公私を支えあう伴侶ではあるのだが、それ以上に上官であり、恩人であり、絶対のマスターである。逆らうことは決して許されなかった。
「夫婦…?夫婦だったのか…。…あ、この前、奥さん鷲掴みにしてすいませんでした」
ゴリツヨはかつての非礼を詫び、頭を下げた。
「あ、うん…」
「そういえば、あの時はずっと鳥から変身しなかったんですね」
「あの時の主は混乱してはいたけど、無傷だったからね。変身して戦う必要はないと主が判断し、変化の許可が出なかったんだ」
アルの説明に、ゴリツヨは感服して頷いていた。
マジーナは行司ごっこに飽きて、魔王たちに寄ってくる。
「んま~~~、なんと可愛らしいご子息~~~」
「あら、ポーちゃん、あれが人間のお嬢さんよ~」
魔法使いの少女は、一定の距離から赤ん坊に近付くのをやめる。アウロラの方も笑顔だが、赤子を人間に近付けようとはしない。
「見るだけにしましょうね、ポー。人間って本当に脆いから」
「力加減出来ないうちに触られると死ぬので、ご容赦くださいね、ぼっちゃま。治せますけども」
ポラリスは無垢な眼差しで手を振る。魔族の赤ん坊はそれだけで、人間の肉を簡単に削ぐことができる。
どれほど善良でも、友好的でも、魔族の赤子と生身の人間を近付けてはいけない。数多の血と悲劇で作られた決まり事がそこにあった。
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