【完結】ギャルSEの異世界デバッグ! ~『ギャルエルフ』になった社畜SEの俺、転生先が『バグだらけの世界』だったのでデバッグすることになりました~

AKINA

プロローグ

コミット 0:この世界はレガシーシステム

コミット 0:この世界はレガシーシステム


「(――マジ、クソ仕様にも程があるっしょ、この世界)」


思考の片隅で、斉藤肇さいとうはじめだった頃の自分が悪態をつく。 目の前に広がる光景は、前世で何度も経験したデスマーチの最終局面――本番環境で発生した、原因不明の致命的な問題クリティカルエラー――そのものだった。


大地は裂け、空は禍々しい紫電を迸らせる黒い雲に覆われている。空間そのものが悲鳴を上げているかのように、大気は不自然に歪み、肌を刺すような魔力の不協和音が鳴り響いていた。


そして、その中心。 谷の底にある巨大な裂け目から、荒れ狂う黒い魔力の奔流が、天へと向かって噴き出している。 それは、まるで世界のシステムに開いた巨大な「穴」。 そこから、数千年分のバグが蓄積した、制御不能なエラーログが、絶え間なく世界へと漏れ出しているかのようだった。


「ニーナ! まだか! このままでは、こちらの戦線が持たん!」


背後から、凛とした、しかし焦りを隠せない声が飛ぶ。 オーレリア王国騎士団が誇る「紅蓮の騎士団長」、ヴァローナ。 彼女が率いる精鋭部隊が、黒い奔流――『黒渦こっか』から溢れ出す異形の魔物たちを相手に、満身創痍で戦線を維持してくれている。


「分かってるって! 今、最高の修正対策パッチ構築コンパイル中だから!」


私は叫び返し、全ての意識を、内なる世界へと集中させる。


瞼を閉じると、その裏に無限の星空が広がる。 周囲の色彩が褪せ、音が水底に沈むように遠のいていく。 私の意識は、物理的な身体を離れ、静謐な思考の空間へと深く、深くダイブしていった。


私のシステムエンジニアSEとしての構造的思考そのものが、魔法となる。 名付けて、「論理魔導ロジカルマジック」。


思考が、無数の青白い光の糸となり、虚空を縫うように走り始める。 まず、核となる概念――『浄化』と『安定』――が、光の種子のように芽吹いた。 そこから、新たな論理の枝が伸びていく。


『黒渦の魔力パターンを逆位相で相殺する』  

『周囲の正常な魔力流を強制的に引き込み、奔流を中和する』  

『安定化させた魔力を、世界の魔力の流れへと還元する』


思考の奔流が、複雑で美しい光のタペストリーを織り上げていく。 それは、まるで熟練のプログラマーが、完璧なソースコードを書き上げていくかのような、神聖な儀式。


だが、その瞬間。 織り上げた光の糸の一部が、不協和音と共に赤黒く明滅し、デジタルノイズのように乱れた。


「(くっ……! 黒渦の抵抗、思った以上に強い……! システム自体が、修正を拒んでる……!)」


思考に僅かな矛盾が生じ、完成しかけた設計図にガラスのような亀裂が走る。 脳裏に、キーンという耳鳴りと共に、思考がショートするような不快な感覚が閃いた。


「ニーナ! 集中しろ! 背中は我々が必ず守る! お前は、お前の成すべきことを成せ!」


ヴァローナの魂の絶叫が、私の乱れた思考に一本の杭を打ち込んだ。 そうだ。私は、もう一人じゃない。


私は、乱れた光の糸に意識を集中させ、その絡まりを一本一本、思考の指先で丁寧に解きほぐしていく。 矛盾した論理を再構築すると、紋様の亀裂が光と共に修復され、より完璧な形へと再編成されていった。


思考のノイズが晴れ、澄み切った静寂が戻る。 そして、ついに。


無数の光の糸が瞬時に収束し、一つの完璧な雪の結晶のような、壮麗な光の紋様を形作った。


内なる世界で完成した論理的紋様ロジカル・グリフが、私のルビーレッドの瞳に焼き付いた瞬間、現実空間にその写し身が転写されるように現れる。 私は、ゆっくりと目を開いた。

「ヴァローナさん! みんな! 今すぐそこから離れて!」


私の両腕に装着された深紅のガントレットが、眩いほどの青い光を放ち始める。 その光は、無数の清浄な光の線となって黒渦へと伸び、それを包み込んでいく。

「――世界のバグは、このギャルSEが、完全にデバッグしてやる!」


私の宣言と共に、ガントレットから放たれた青い光の奔流が、荒れ狂う黒渦の中心核を貫いた。


この私が、なぜ世界の命運を担うことになったのか。そして、あの堅物の女騎士団長が、なぜ私の言葉を絶対の信頼をもって受け入れてくれているのか。その全てを理解してもらうためには、システムの時間を、少しだけ巻き戻す必要があるだろう。


全ては、一人の社畜SEが、バグだらけの人生を強制リブートさせられた、あの瞬間から始まったのだから。

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