コミット 8:初陣、ゴブリンエンカウント!論理魔導《ロジカルマジック》、実戦投入の壁

村人からの情報を元にした分析の結果、私はゴブリンたちの出現ポイントと、その大まかな行動範囲を特定した。そして、バートンさんから聞いた「光と音に弱い」という弱点を突くための、対策魔法を考案した。


「(生態系のバグ……か。でも、出現した個体の特性は既知の情報と一致する。なら、その脆弱性を突くのが、最も効率的なデバッグ方法だ!)」


仮説は立った。あとは、それを実証するだけだ。

私は、村の猟師に頼んでゴブリンの出現ポイントまで案内してもらい、一人、森の中へと足を踏み入れた。これは、私の分析に基づいた対策の、実装とテストだ。


森の奥深く、開けた場所で、私はついに目標のゴブリンの群れと遭遇した。数は五、六匹。棍棒を手に、意味もなく威嚇の声を上げている。


「キギィィィ!!」


私を見つけたゴブリンたちが、濁った目で一斉に襲いかかってきた。その動きは単純で、直線的だ。


「(よし、論理魔導ロジカルマジック実戦投入だ! まずは、バートンさんから聞いた情報が正しいか、検証させてもらうよ!)」


私の意識が、内なる世界へと沈んでいく。

虚空に『火』という核となる概念が、光の種子のように芽吹く。思考が光の糸となり、そこから『瞬間燃焼による光量最大化』という一つの論理の枝を伸ばしていく。思考の奔流が、前方の空間に存在する魔力粒子を一斉に、そして瞬間的に発火させることで、目を眩ませるほどの閃光を生み出す、単純で、しかし美しい光のタペストリーを織り上げた。完成した設計図が、私の瞳にルビーレッドの紋様として焼き付いた。


「(――『閃光火花フラッシュスパーク』、実行エクゼキュート!)」


イヤリングに魔力が供給され、私の手のひらからパッと弾けるように、網膜を焼き尽くすほどの眩い閃光と、空気が裂けるような鋭い破裂音が同時に放たれた。

知性の低いゴブリンたちは、その予期せぬ刺激に完全にパニックに陥り、棍棒を取り落として耳を塞ぎ、その場でうずくまった。


「(よし、効果あり! バートンさんの情報は正しかった!)」


仮説は正しかった。しかし、ここからが本当の戦いだ。

リアルタイムで敵の動きを予測し、それに対応する最適な魔法を構築し、実行する。この一連のデバッグ作業は、私の思考リソースに、想像以上の負荷をかけていた。


「(くそっ、思考が追いつかない! 敵の行動予測→対策魔法の構築→実行……このサイクルが、思ったより速い!)」


混乱から立ち直った一体のゴブリンが、やみくもに棍棒を振り回しながら突進してきた。


「(やばいっ! 防御魔法……!)」


咄嗟に、魔力の壁をイメージし、薄い炎の障壁を展開しようとする。しかし、焦りのためか魔力制御が安定せず、思考のタペストリーにノイズが走る。障壁は頼りなく揺らめくだけで、ゴブリンの一撃であっけなく砕け散った。


衝撃で腕が痺れる。


「(いっ……! やっぱり、まだ実戦でのリアルタイムデバッグは、未熟すぎる!)」


SEとしてのプライドが、この程度のバグに苦戦している自分を許さない。

私は後ずさりながら、必死に次のロジックを組み立てる。集中しろ、斉藤肇! お前はSEだろ! 目の前の脅威(バグ)を排除しろ!


そして、私はついに、この状況を打開するための、最も効率的なロジックを見つけ出した。

一体一体を相手にするから、思考リソースが追いつかないのだ。ならば、まとめて無力化すればいい。


「(対象:範囲内の敵全て。動作:『火炎で包囲し、収束させる』。設定:効果範囲・最大!)」


なけなしの魔力のすべてを、耳元の小さな魔石に叩き込む! 脳が焼き切れそうなほどの集中力で、暴走しかける魔力の奔流を無理やり一つの形に押し込める!

赤い魔石が、悲鳴を上げるようにこれまで以上の灼熱を帯びて激しく輝き始めた。

混乱して密集しているゴブリンたちの周囲の地面から、円を描くように制御の効かない荒々しい炎の壁が噴き上がる。


「キギィ!?」


逃げ場を失い、炎の壁に怯えるゴブリンたち。私は、その炎の壁を、内側に向かってゆっくりと、しかし確実に収束させていく。これは一括バッチ処理などというスマートなものではない。エラー覚悟の強制実行に近い、無茶苦茶な荒業だ。


「(もってくれよ……俺の集中力と、このちっぽけなイヤリング……!)」


炎の渦の中心で、ゴブリンたちの断末魔が響き渡り、やがて消えていった。

森には、静寂が戻ってきた。


「(ぜぇ……ぜぇ……! 何とか、なったのか……? 今回は、運が良かっただけだ……! でも、確かな手応えはあった。戦闘も、デバッグ作業だと思えば、必ず攻略法は見つかるはずだ!)」


実践での論理魔導ロジカルマジックの難しさ、そして自分の未熟さを痛感した戦いは、同時に、この世界のバグと戦っていくための、確かな自信と道筋を、私に示してくれたのだった。

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