#7「エルフに追われ、教会を全力掃除」

あの日、クエストボードの下段に貼られていた一枚の依頼――


「隣村の教会大掃除」


古い建物の埃、磨き甲斐のある床、光を取り戻すステンドグラス……想像だけで右手がうずいた。

受け取った瞬間から、俺の心はこの依頼に囚われ続けていた。


……まあ、途中で金髪エルフの襲撃(?)とか色々あったけどな。

そんな細かいことは置いといて、今は本命――掃除だ。


隣村に着いた俺は、まず周囲を一望する。


「よし……エルフ の姿は、今のところはない」


ルミナスは背中にぴたりと張り付き、ふさをゆるく揺らしている。


「お前も分かってるな、今日が本番だ」


ふさが小さく膨らみ、肯定のように一回転した。


ギルドの紹介状を持って教会の扉を開けると、白いローブのシスターが出迎えた。


「まぁまぁ、冒険者ギルドからの方ですね。助かります、聖堂の掃除をお願いできますか?」

「任せとけ。これこそ俺の天職だ」


モップ――ルミナスを構え、床に一歩踏み入れる。

長年の煤や足跡でくすんでいた床に、ふさがすべる――


――シャアアアッ……!


汚れがみるみる消えていき、石床は新品同様の白さを取り戻す。

陽光が反射し、聖堂全体がわずかに明るくなる。


「……くぅぅっ……この……ッ」

「ぬっほおおぉぉぉぉッ!!しゅごいぃぃぃ!床がッ……床が生まれ変わっていくぅぅうう!!」


シスターがドン引きして後ずさる中、俺は全開で隅々まで磨き上げた。

そのたびに、ルミナスのふさの奥に何かがキラリと吸い込まれていく……気がする。

だが、見直しても何も残っていない。


(……今の、なんだ? まあいい、今は磨くことに集中だ)


やがて聖堂は、床にピースサインが映るほどの輝きを取り戻した。


「……ふぅ……終わったぞ」

「こ、こんなにきれいになるなんて……ありがとうございます」


ステンドグラスから差す光が、磨き上げた床に反射してきらめく。

……ああ、完璧。もうこれ以上やったら光が嫉妬するレベルだ。


「さて……依頼は達成――」


ふと、頭の片隅にあの金髪エルフの顔がよぎる。

あの調子だと、そう遠くないうちにここまで追ってきそうだ。


「……よし、長居は無用だ」


俺はルミナスを背中に担ぎ直し、そそくさと教会を後にした。

扉を開けた瞬間、通りの向こうに金髪らしき影がチラリと見えた。


「――やっぱ来やがったッ!」


俺は人混みに紛れ、逆方向へ全力で歩を進める。

群衆の間を縫い、露店の裏を回り、樽と樽の間をスライディングで抜け――


(ふっ、撒いたな……!)


その瞬間。


「――おやおや、見事な逃げ足ね」


背中にぴたりと張り付く気配。


「ひぃッ!?」


反射的に振り向くと、金髪エルフが息一つ乱さず真後ろに立っていた。

俺が回った露店の角を、優雅にスカートの裾を揺らしてショートカットしてきたらしい。

まるで猫が逃げるネズミを追い詰めるような、じわじわ詰める笑み。


俺は再び走り出す。

右へ、左へ、急な階段を二段飛ばしで駆け上がる。

振り返れば――階段の手すりをスッと飛び越えて横から出てくるエルフ。


(なんで同じ距離なの!? 物理法則どこ行った!?)


最後の希望をかけて市場の群衆に突っ込み、野菜籠の間をすり抜ける。

だが次の瞬間、俺の肩がガシィッと掴まれた。

振り向けば、逆方向から回り込んできたエルフが、にっこり笑っていた。


「……捕まえた」


周囲の村人が「なんだなんだ?」と首を伸ばし、野菜の山や樽の陰からじろじろ見てくる。

露店の親父まで手を止めて、にやつきながらヒソヒソ話を始めた。


「恋人同士の痴話ゲンカかねぇ」


「いやぁ、あの顔……借金の取り立てだな」

 ――どっちも違う。やめろ、勝手に物語を作るな。


その視線が痛い。


(……くっ、このままでは――不埒者 すけべものの烙印を押されてしまう……!)

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