異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
序章 清掃員、異世界に召喚される
#1「漆黒の社畜、モップ片手に召喚される」
職業・清掃員。年間休日はカレンダーの半分以下、残業代はモップの柄ほど細い。
都心の清掃会社に勤めて十五年。
上司の口癖は「人手不足は気合で補え」。
そんな環境でも――汚れや埃が消えて、誰かが喜んでくれる。そんな瞬間が俺の唯一の楽しみだった。
この日も朝五時半出勤。今日も過酷な長時間労働が始まる。
夜勤明けの同僚が交代前に言った。
「悪い、三階のトイレ詰まってるから頼むわ」
「またかよ……」
それでもモップを握れば自然と段取りが頭に浮かぶ。
キレイになったトイレを想像しながら、モチベーションを取り直す。
「よし……ここは俺の出番だな」
そう呟いた瞬間だった。
足元の床がじわじわと光りだす。
「……ん?」
反射かと思ったが、光は強くなり、視界を真っ白に染める。
思わずモップを握りしめた。
『来たれ、異界よりの勇者よ──』
耳元で低く響く声。
「勇者? 俺はただの清掃員だぞ!」
眩しさが消えた時、そこは石造りの大広間だった。
床には複雑な魔法陣。周囲にはローブ姿の老人たちと、そして俺より若そうな少年少女が四人。
「召喚成功です!」
「これで魔王討伐も──」
ざわめきの中、年配の魔法使いが杖を突き立て、俺に向ける。
「スキル鑑定!」
視界の端に文字が浮かんだ。
――【スキル:清掃】
「……清掃……だと?」
「なんだそれは、聞いたこともない!」
「五柱の使徒ではないのか!?」
ローブの老人たちがざわつく。
一方、たぶん勇者と呼ばれているであろう少年が話かけてきた。
「あなたも一緒に、戦ってくれるんですよね?」
「いや無理だな。俺は清掃員だから」
空気が凍った。
冷ややかな視線が俺に集まる。
だが無理ものは無理だ。
痛いのも、怖いのも絶対に嫌だ。
その時、魔法陣の端に黒い影が目に入る。
「……汚れてる!」
気づけば体が動いていた。
一瞬で
──同時に、魔法陣の光が霧散する。
「な、何をしておる!」
「魔力が……消えていく!?」
老人たちが絶叫する。
「召喚のため数年かけて蓄えた魔力が!」
「すべて拭き取られてしまった!」
俺を睨みつけてくるが、俺に言えることは一つしかない。
「だって汚れてたんだよ」
悪気なんてなかった。
ただ汚れを無視できなかっただけだ。
「この役立たずが!」
「牢に放り込め!」
怒号とともに、なだれ込んできた兵士に取り押さえられた。
モップを奪われ、怒号の渦にまみれながらズルズルと引きずられていく。
こうして俺は――勇者どころか、役立たずとして牢屋に放り込まれた。
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