第3話: 発見 その1
数週間が、慣れない感覚と終わりなき適応の中であっという間に過ぎていった。
エマは小さなベビーベッドに包まれ、柔らかい毛布を無意識に握りしめていた。外の世界は広大で混沌としており、新たな人生の穏やかな泡のような空間とは対照的だった。頭上では木製のモビールがゆっくりと回り、彩られた動物たちが円を描きながら、淡い色の壁にかすかな影を落としていた。
すべてが夢のように感じられた。
「……これは、二度目の人生」
天井を見つめながら、エマは思った。幼い体に閉じ込められながらも、心は鋭く冴えていた。しかし、生まれ変わったことの新鮮さは、すでに薄れつつあった。
隣のベビーベッドから、双子の兄・イーサンの泣き声が響き渡る。静寂を切り裂くようなその声に、エマは思わず小さな手をぎゅっと握りしめた。
「また泣いてる……。この子、一度でも静かにできるの?」
どれだけ心が成熟していても、彼女はこの無力な体の囚われ人だった。歩くことも、話すことも、さらには泣き止まない弟を黙らせることすらできない。エマは目を閉じ、ありったけの忍耐力を振り絞った。
***
時が流れ、エマの世界は少しずつ広がっていった。
生後五か月を迎えた頃、母・ヴィヴィアンはついに、エマとイーサンを初めて外の世界へ連れ出すことを決めた。
朝の陽射しが柔らかな金と桃色に街を染め、石畳の道を優しく照らしている。ヴィヴィアンは淡い緑のロングドレスをなびかせながら軽やかに歩き、腕にイーサンを抱き、背中には布製の抱っこ紐でエマをしっかりと固定していた。
通りは活気に満ちていた。
市場には色とりどりの屋台が並び、優しい風にカラフルな布がはためいている。商人たちは威勢よく客を呼び込み、買い物客の話し声や馬蹄が石畳を叩く音が響き渡る。空気には焼きたてのパンの香ばしさ、香ばしいナッツの香り、そして熟れた果実の甘酸っぱい匂いが混じっていた。
エマは興味津々に辺りを見回した。どの屋台もまるで異世界への扉のように思えた。
果物屋の前で足を止めると、日焼けした肌の女性が優しい目でヴィヴィアンに微笑んだ。
「今日は素敵な日ね。小さな子たちにぴったりだわ」
そう言いながら、イーサンの頬をつまむ。すると、イーサンの口から小さな泣き声がもれ、それは瞬く間に大きな号泣へと変わった。
エマは眉をひそめ、内心ため息をついた。
「まるで悲劇の主役気取りね……」
ヴィヴィアンは根気強くイーサンの背中を優しく叩きながら、穏やかに子守唄を口ずさんだ。
その時、ふとエマの視線を惹きつけるものがあった。
市場の端に鍛冶屋があり、燃え盛る炉の光が周囲を明るく染めていた。屈強な鍛冶職人が鉄槌を振るい、赤く熱せられた鉄を叩くたびに火花が飛び散る。カンカンと響く金属音が空気を震わせた。
エマは息をのんだ。
その光景に目を奪われたまま、彼女は無意識に前のめりになる。
かつて「フロストフォールの塔」の最強のボスとして、彼女は数々の伝説級の武器を振るってきた。だが、その武器がどのように作られたのかを考えたことは一度もなかった。今、目の前で鋼が剣へと姿を変えていく様子に、奇妙な畏敬の念を抱いた。
「……始まりは、ここからなのね」
鍛冶屋の手の動きをじっと見つめながら、エマは思った。
市場には、まだまだ興味をそそられるものが溢れていた。
近くの薬屋では、色とりどりの瓶が並び、中の液体が星の光のようにきらめいている。癒し、力、あるいは魔法をもたらす秘薬——どれもが未知の可能性を秘めていた。
宝飾店には、陽光を受けて輝く宝石が美しく陳列され、菓子屋の前では子供たちが動物の形をした砂糖菓子に歓声を上げていた。
ヴィヴィアンはパン屋で焼きたてのパンを買い、その後、小さな袋いっぱいのキャンディを購入した。袋を開けると、甘い香りがふわりと漂う。
彼女はまずイーサンの口にひとつ入れ、泣き声をようやく止めた。その後、エマにもひとつ差し出した。
口に入れた瞬間、純粋な甘さが舌の上で弾ける。
エマは驚き、そしてゆっくりと微笑んだ。
生まれ変わって以来、初めて——本当に子供としての純粋な喜びを感じた瞬間だった。
***
帰り道、市場は夕暮れの柔らかな光に包まれていた。
イーサンは母の肩にもたれ、満足げに静かに息をしている。
エマは抱っこ紐の中で小さく息を吐いた。
今日一日で、彼女は多くを知った。見て、聞いて、感じたこの世界の鮮やかさ——すべてが新鮮で、生き生きとしていた。
かつて冷たい「フロストフォールの塔」に閉じ込められていた彼女にとって、これはまるで奇跡のような世界だった。
夕焼けに染まる空を見上げながら、彼女は思った。
「私は——準備ができている」
小さな手で、母のドレスの布地をぎゅっと握る。
「どんな未来が待っていても、私は受け入れる」
母の足音が心地よいリズムを刻む中、エマは穏やかな眠りへと落ちていった。世界は、温かく、優しく、彼女を包み込んでいた。
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