最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?
一終一(にのまえしゅういち)
第1部 雷帝編
第1話 アシュラ転生
目を覚ました時、俺は知らない場所にいた。
……いや、どこかで見たような場所だ。
岩肌むき出しの天井。黒曜石のような質感の壁。床には
「そうだ、ゲームで見たことある……!」
その瞬間、覚えている最後の記憶がよみがえった。
俺こと、
……これは、どういうことだ?
「うわっ……な、なんか体、重っ」
起き上がろうとした瞬間、背中と腕に違和感。いや、違和感どころじゃない。
目の前に伸びていたのはゴツゴツとした青黒い異形の腕。皮膚ではなく、魔石のように硬質な
「は? なにこれ俺の腕!?」
混乱しながら辺りを見回す。目に留まったのは部屋の隅に突き刺さる一本の大剣。やたらとでかく、刃の部分がまるで鏡のように光を反射していた。
もしかしたら今の自分の姿が見えるかもしれない。そう思って剣の前までにじり寄る。
その刃に映っていたのは——三つの顔を持つ化け物だった。
中央の顔は人間に近いが、肌は青白く、眼光が異様に鋭い。右には鬼のような面、左には仏像めいた顔。そして、背後には六本の腕が
「うわああ!? こ、これって……アシュラじゃねぇか!!」
叫ばずにはいられなかった。
これは俺が《ティタノマキア》で何度も見たあのビジュアル——最弱レイドボス・残酷王アシュラ。
「俺、アシュラになったのか……?」
混乱を押し殺し、なんとか状況を整理しようと試みる。
夢、にしてはリアリティがあり過ぎる。定番の頬をつねって確認してみるとちゃんと痛みがある。念の為、三つある顔すべてつねってみたが全部痛い。
俺がいた場所にはタマゴの殻のようなものが落ちている。近づくと、粘液が見えた。恐る恐る触れると生温かい。いま俺がここから生まれたということか?
アシュラって卵生だったのか。そんな設定あったっけ。いまいち覚えていない。……まぁそれは置いといて。
「ゲーム世界に転生、したのか? いや、さすがに論理の飛躍がすぎるか」
俺が漫画、アニメ、ゲームオタクだからそう発想しただけかもな。何か他に思いつけ俺。うん、無理だ俺。仕方ないので転生(仮)としておく。
「……次は周囲の確認だ」
俺がいるのは天井の高い巨大なホール、いや、これは《ティタノマキア》で見たレイドボスの玉座部屋そのものだった。背後には
周囲は静まり返っていて、モンスターの気配もプレイヤーの姿もない。
「外に出てみるか」
そう思い、正面にある扉に近づこうと歩き出す。が。
「……ん?」
扉の前で立ち止まる。明らかに小さい。腕を通してみるも、肩が引っかかって通れない。
左右にねじっても、斜めにしても、ムリ。背中の腕が扉のフレームに引っかかって身動きが取れない。周囲の壁を削ろうと殴ったり、剣でギコギコしてみるも傷一つつかない。
「う、うそだろ……? これ、俺の部屋っていうか家だろ!? なんで住人が出られないんだよ!!」
もがいても六本の腕が勝手に暴れて近くの
しゃがんで扉の先を覗いてみる。
「おーい、誰かいますかー?」
返事はない。俺の声がかすかに反響するだけ。
仕方ない、玉座の裏のハリボテ扉に賭けよう。あっちは大きいから本物の扉になっていたら出られるはず。
立ち上がって
なんてことを考えていたら、ハリボテ扉に着いた。息を飲み、六つの手でゆっくりと触れる。
しかし、押しても引いても叩いても蹴ってもビクともしない。素足で蹴ったからつま先がジンジンしただけ。ぐすん。
……完全に詰んだ。
ため息をついて、その場にへたり込む。巨大な手が岩の床につき、ズシンと重低音が響いた。
「いや、嘘だろ……?」
異世界転生した先がゲームの最弱ボスで、しかも部屋から出られないって何!?
せっかくだから、まったり暮らそうと
まさか、このまま餓死か……? 何のために転生したの……?
だんだんと希望という名の何かが
六本の腕が情けなく床に垂れ下がる。
目の前のの玉座が、やけに立派に見えた。
誰も座ることを望んでいない、孤独な王の席。
その座に就いてしまった俺は、まだ何も始まってすらいないというのに出オチで詰んでいた。
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