19.優秀なお嬢様とメイド
俺が先頭になって山の中を進む。いつもソロだったから先頭に立つってのがなんか新鮮だな。
歩きながらヤナンの山に出没するモンスターの特徴を伝える。なんだか先生にでもなった気分。
国民的某RPGで例えると、アリッサちゃんは盗賊的な役割なのだそうだ。俺とは別の感覚が鋭いようでモンスターとのエンカウント率を下げてくれる。
ユフィーナは明らかに女戦士で、戦う手段が素手の俺は武闘家ってとこか。このパーティー、物理アタッカーしかいねえな……。
「あっ、そこにモンスターがいるわよ」
「討伐依頼を受けていないから却下。無駄な戦闘は極力避けるぞ」
「むぅ……」
不満そうに頬を膨らませるユフィーナ。なんだよオイ、可愛いかよオイ。
ピンクブロンドのお嬢様は戦いたくてうずうずしていた。こんなバトルジャンキーに育ってしまって……。ユフィーナの幼少期とか知らないし、案外元から戦闘民族かもしれないな。
「そういえばモンスターを討伐したことがあるって言っていたけど、冒険者でもないのにどういう状況でそんなことをしたんだ?」
お嬢様ならうっかり危険な場所に行くことはないだろうし。戦う訓練はしていたようだが、だからって兵士の仕事をしていたわけでもないだろう。
「それは勇者パー──」
「ユフィーナ様っ」
ユフィーナが説明してくれようとしていた口を、アリッサちゃんが素早く手を伸ばして塞いだ。さすがは盗賊ポジのメイドさん、素早さの数値が高い。
「もしかして秘密だったか?」
「は、はい。申し訳ありません」
まあただの冒険者に、お貴族様の秘密を漏らすわけにはいかないか。俺は素直に引き下がることにした。
目的の薬草の群生地を求めて歩き続ける。あまり山奥に入りすぎないよう、注意を促す。この急造パーティーで、いきなり強いモンスターと戦うのは避けたい。
「げっ、モンスターがいるよ……」
目的の薬草の群生地に辿り着いたのはいいが、そこでは赤いイノシシが「ふごふご」と鼻を鳴らしながら食事中だった。
レッドボア。初心者冒険者でも討伐依頼を受けられるモンスターの一体だ。その名の通り赤いイノシシである。
イノシシらしく、突進攻撃に要注意だ。戦士であるユフィーナはともかく、小さい身体のアリッサちゃんだと吹っ飛ばされかねない威力だろう。
危険度はゴブリンと同じくらい。つまり、俺ではよくて互角といったところか。
「ジェイル、あれは倒してもいいわよね? ふふっ、ついに私の出番ね」
ユフィーナがワクワクした様子で剣を抜いた。お値段が張りそうな刃が、陽の光を浴びてキラリと輝く。
「まあ、仕方ないな……。油断はするなよ」
「当たり前よ。落とし穴があったとしても、絶対に引っかからないわ」
落とし穴? 人間じゃあるまいし、さすがにそこまで警戒しなくてもいいと思うんだけど……。
ユフィーナがどれほどの強さなのか。それを知るためにもレッドボアならうってつけだろう。あの立派な鎧なら、一回くらい突進を食らったところで致命傷にはならないはずだしな。
「一人で大丈夫そうか?」
「もちろん。あれくらいのモンスターなら、ジェイルの手を借りるまでもないわ」
頼もしい返事だ。俺は後ろから彼女の戦いぶりを見学することにする。
もし何かあればユフィーナを抱えて逃げれば良い。アリッサちゃんも周囲を警戒してくれているし、滅多なことにはならないだろう。
ユフィーナは足音を殺さずに、レッドボアへと近づいた。
「フゴ?」
いくら食事中だろうとも、野生のモンスターが音に鈍感なはずがない。ユフィーナに気づいたレッドボアは目を真っ赤にさせて興奮状態になった。
わざと足音を立てて自分の存在を気づかせたな。どうやらお嬢様は正々堂々、真正面から戦うつもりのようだ。
「フゴォォォォォォーーッ!」
レッドボアがユフィーナに向かって突進する。それほど大きい個体というわけでもないが、スピードがある。当たればけっこうなダメージになるだろうと思えるだけの迫力があった。
だが直線的な攻撃は避けやすい。これなら容易に回避できるだろう……そう思っていたら、ユフィーナもレッドボアに向かって真っすぐ駆け出した。こっちも突進!?
「たぁっ!」
ユフィーナはレッドボアと衝突する瞬間に剣を振るった。彼女の腕前と切れ味の良い剣が合わさり、レッドボアはあっさりと一刀両断された。
ドサリと地面に落ちるレッドボアだったもの。明らかに戦い慣れしているお嬢様に面食らってしまった。
モンスターへの恐怖は感じられないし、剣筋に迷いもない。このお嬢様、想像以上に強い。
「どう? 私もなかなかやるでしょう?」
討伐を確認して、ユフィーナは誇らしげな顔で振り返る。
「すごいぞユフィーナ! 一撃で倒すなんて驚いた。ものすごく強いんだな」
「えへへー」
褒めてやればユフィーナがはにかんだ。女戦士がチョロ可愛すぎる件。
いや、でも本当にすごい。相手がそれほど強くないとはいえ、レッドボアを一撃で倒せる冒険者はそんなにはいないはずだ。少なくとも俺には無理。
「さて、と。せっかくだからレッドボアの肉を持って帰ろうか」
レッドボアの肉はピリ辛で美味いと評判だからな。つまり持ち帰った肉は飲食店で美味しくいただかれることになる。新鮮なうちに届ける方が良いだろう。その方が高く売れるし。
「でも、まずは薬草採取をしないとな。血の匂いに他のモンスターが寄ってくるかもしれないから急ごう」
「それでしたら、わたしに任せてください」
「え、どうするつもりだ?」
アリッサちゃんが真っ二つになったレッドボアに近づく。どうするにしても、あの小さい身体では持ち運びに苦労すると思うのだが。
だがしかし、ここはファンタジー世界だ。小さいメイドさんが実は怪力だった、というのはあり得る話だろう。
怪力メイドさんに期待して胸をときめかせながら、アリッサちゃんがレッドボアに手を伸ばすのを見守る。
「え、あ、あれ?」
小さい体格の女の子が、大きいものを軽々と持ち上げる。そんな光景を予想していたのだが、アリッサちゃんが触れた瞬間、レッドボアの亡骸がふっと消えてしまった。突然のことにうろたえた声を漏らしてしまう。
「フフン。どう、驚いた? アリッサには【収納の加護】があるのよ。物を異空間に収めることができる便利な加護でしょ」
「え、アリッサちゃんってそんな有用な能力を持ってんのか?」
それってアイテムボックスじゃん。異世界ものの転生者がよく持っている、とてつもなく便利な能力。チートスキルの一つと言っても過言じゃない。
アリッサちゃんがゆっくりと振り返る。無表情のはずなのに、なぜだかとても得意げにしているように見えた。
「わたしの加護、内密でお願いしますね」
人差し指を口元に当てて、そんなことを言う銀髪ロリメイドさん。
異世界ものの漫画で主人公が持っていることが多い能力に、羨ましすぎて指をくわえてしまった。よく考えなくても、俺のエロスキルよりも便利だよなぁ。
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