長老をゴン(追憶)3

「シルヴェル翁。外の冒険者が訪ねてきました。あとエヴグリムの娘も」


「おお。そうかそうか。入ってもらいなさい」


「はい。……私はここまでだ」


「ああ、ありがとう」


中に入ると金属製のものが少ないこと以外は、極めて一般的な家屋と変わらない部屋であった。

広さは十分にあるが、壁一面の書棚が若干の圧迫感を抱かせる。

本を気遣ってか採光は最低限に抑えてあり、その代わり魔法の光源が浮かべられている。

部屋の真ん中に置かれたテーブルの向こう側にはひとりの老人が腰掛けている。


「やあやあ、よく来たねお客人。座ったままですまない。最近はとみに足腰が弱くなってしまってね」


「いえ、構いませんよ」


「じい。お茶の場所は変わりないか?」


「おお、おお。エルサイノス。お茶を淹れてくれるのか。場所は何も変わらないよ」


「おい。失礼だろう」


「よいよい。あの娘にとっては実家のようなものさ」


「そうなのですか。すみません」


「仕事の話はお茶を飲みながらでもよいかな?」


「ええ、構いませんよ」


勝手知ったる他人の家とばかりに、奥の部屋へと向かうエルサイノスを咎めるザザであったが、家の主からそう言われたらそれ以上は何も言えなかった。

そうして少しの間、手持ち無沙汰な時間が過ぎる。


「お客人よ、不躾ですまないがあの娘とはどういった関係で?」


「俺と彼女は夫婦です」


「なんと、なんと。あの娘が夫を……。私も歳を取ったものだ」


「何を言っているんだ、もう500歳だろ」


奥の部屋からエルサイノスのツッコミが入る。

長い耳は飾りではないのだ。


「ええと……エルフ的に500歳というのは?」


「まあ、相当な年寄りと思ってもらって構わないよ」


その言葉のとおり、目の前のエルフは老人だ。

妻のエルサイノスを始め、これまで見てきたエルフは皆、普人的な観点からすれば若々しい者ばかりだっただけに少し珍しく感じる。

髪は色を失い、顔や手などにはシワが目立つ。

それでも元は美丈夫であったであろう痕跡を見つけることができる。


「挨拶が遅れて申し訳ない。俺はザザ=メイフォンと申します」


「これはご丁寧にどうも。私はアレアのシルヴェル。あなたたち風に言うとシルヴェル=アレアとでもなるのかな」


「その、先ほどここは妻の、エルサイノスの実家のようなものと仰ってましたが……彼女からは親類縁者は居ないと聞いていたもので」


「ええ、嘘ではないよ。あの娘はここで多くの時を過ごしたが、別に孫や何かというわけではないからね」


「なる、ほど?」


「あの娘がよければ、私からお話しするけどね」


「好きにしろ」


独り言のように発された言葉に、再び奥の部屋から返事がある。

シルヴェルは僅かに笑みを深め、語り始めた。


私はあの娘の祖父と古くからの友人でね。まあこの森に住む年寄りなら友人は皆、古くからの友人になるのだけどね。

ああ、ここは笑うところだよ。

それでその友人にはひとり娘がいたのだけれど、古臭い森での生活に嫌気が差したとかで飛び出していったんだ。

それなりの時間が経ってから、その娘がひとりの赤子を抱いて帰ってきた。

それがあの娘なのさ。

若い娘が、嫌気が差して飛び出すくらいには古臭いところだからね、色々と口さがないことを言う連中も多かった。

それでも娘は気丈に振る舞っていたよ。

しかしある日、娘は病にかかってしまった。

流行り病だった。

そして父娘はあっさりと亡くなってしまった。

だから私が引き取ったというわけさ。

あの娘はエヴグリム氏族の最後のひとりなのだ。

血を絶やすわけにはいかない。

私はそうした血統だのなんだのは気にしない性質たちなのだけれど、その友人の言葉を聞き、彼の願いを叶えようと思ったのさ。




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毎度どうも、ニックです。

実は本作を『第1回GAウェブ小説コンテスト』に応募しております。

ラストスパートとして、本日連続更新をいたしますので、応援(★/レビュー/フォロー/❤︎/コメント)のほどよろしくお願いします。

次話は本日中に投稿されます、されたら良いな(希望)。


Nikolai Hyland


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