ダンジョンでゴン(中編)

探索都市、ダンジョンギルド。

ダンジョンギルドとは冒険者ギルドの一部門であり、その名のとおりダンジョン探索者のための互助組織である。

それと同時に、ダンジョンからモンスターがを防ぐための管理組織でもある。


「Aランクでもダメなのか?」


「規則となっておりますので」


「うぅ……」


「迷惑をかけるなよ。大分短縮してくれるというのだから、それで良いじゃないか」


その受付で駄々をこねる女エルフがひとり。

言うまでもなくエルサイノスであった。


ダンジョンの探索は、誰でも好き勝手に挑めるわけではない。

入場には一定レベルの冒険者ランクと、ダンジョンごとの講習が必須条件となる。

命の軽いこの世界においては非常に珍しく、使い捨ての人海戦術でゴリ押しするのではなく、探索者の質を高めようという制度設計である。

彼らダンジョンギルド曰く、若者ばかりを無駄に失えば、やがて年寄りばかりが残るようになるという、理性的で理解しやすいものであった。

ともあれ、そうした理由ですぐさまダンジョンに入ることができないという事実に直面していたわけである。


「すまないな。とりあえず、直近の講習を予約したいのだが」


「わかりました。直近ですと、明日の朝イチがありますがいかがでしょう」


「それで!」


「エル、君は起きられるのか?」


「起こして! 連れて来て!」


「はあ……ではそれで頼む」


「承りました」


◇◇◇◇◇◇


「あ。お前ら……いえ、あなたたちは!」


「ん、ああ。君か」


──ブオンッ!


ギルドを出て宿に向かうところで声をかけられたメイフォン夫妻。

その声の主はと言えば、先ごろザザとエルサイノスの関係をパパ活だと勘違いしたモブ男である。


「あの時はちゃんと謝れてなかったですよね。本当にすみませんでした。あの後、ギルトの人たちに聞いて、立派な人たちなんだって……」


焦った様子で言い募るモブ男の態度もむべなるかな、目の前でメイスを素振りし始めるエルサイノスを視界に収めているのだから。


「いや、客観的に見たらそう思ってしまうのは仕方がないさ。こちらこそ、突然アレしてしまって申し訳がないよ」


「謝らないでください!」 「謝る必要はないぞ」


「完全にこちらが悪かったんです!」 「こいつが悪かったんだ」


「「ん???」」


「仲いいなお前ら」


そんなやり取りを交わしつつ、近況を語るモブ男。


曰く。

目覚めたらギルド中から憐れみの目を向けられていた。

よくわからないミームを話す連中に説明を受けた。

それはそれとして間引きの依頼を請けた。

まだ実績がないから浅層を担当することになった。

初めは順調だったが、途中からスタンピードが起きた。

周囲──件のよくわからない連中とともに依頼をこなしていた──を守りつつ、モンスターの波を捌き切った。

その実績もあって昇級した。

路銀を稼げた──目的のために旅をしている途中らしい──ので、街を離れた。

南方の街で酷い暴政を行う領主がいたが、何故か改心してまともになった。

ダンジョンで腕を磨こうとこの街にやって来た。

冒険者ランクもまだ低く、ダンジョン初心者ということで入場のためのクエストをこなしていた。

講習が終わったら一緒に探索しようと声をかけてくれるいい人がいた。


そんな世間話をしている内に要件を思い出したのか、別れを告げてダンジョンギルドの建物に入っていくモブ男。


「…………まあ、悪いやつではなさそうだな」


「『悪いやつじゃない』っていうのは、いいやつには付かない修辞だろう」


「それはそうだ」


いつの間にかメイスをしまっているあたり、エルサイノスのモブ男を許したということだろうか。

そんなことを思いつつ、宿に向かう歩みを再開させるメイフォン夫妻であった。

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