壁ゴン(前編)
メイフォン夫妻がこの街に訪れてから約一ヶ月が経過している。
この日は依頼の前にバルドリンの工房を訪れていた。
相変わらず接客する気のない無人の店舗内に銅鑼の音が響き渡る。
「なんじゃ(以下略)」
「客に向か(以下略)」
と、毎度のごとくやり合う様子に、そういえばなぜエルフとドワーフはこんなに仲が悪いのだろうかなどと益体もないことを考えながら、本題に入るザザ。
「装備の方はどうなっている?」
「ああ、結構順調だぜ。なかなか良い検証結果が出たからな、ここからは実際に装備を作ってみるところだ」
「そうか。あとどれくらいかかりそうだ?」
「そうさな……一月くらいあれば、最終調整に入れるだろうな」
「全部で二ヶ月か。割と早かったんじゃないか?」
「なーにを偉そうに言ってやがる。ワシの腕が良いからだわ」
「その辺にしておけよ。それより、例のバカボンの周辺はどんな感じかわかるか?」
話題をそらしたザザに、バルドリンが考える様子を見せる。
「そういやおめーら、なんとか言う暗殺者を捕まえたそうじゃねーか」
「ああ。例の貴族の差し金らしいが……」
「せっかく捕まえたのに逃がしたんだぞ! 官憲はしっかりしてるんじゃなかったのか?」
「バカボンの息がかかってないだけで、有能だとは言ってねえだろ。まあ無能ってわけでもねえがな。それなりに名うての暗殺者だったんだろ」
「まあ俺たちとしては懸賞金もしっかり貰えたから構わんがな」
「でもまた襲ってくるかもしれないぞ?」
「そしたらまた懸賞金が貰えるかもしれないな」
いや、あの恐怖に引きつった顔を思い出すと、もう二度と近付いてこない気もする。
そんなやり取りをして、一ヶ月くらいであればこのまま滞在しようと言って店を出る。
◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドに寄って依頼を見繕い、街を出て少し歩いたところで変な集団に絡まれた。
「うーん。あんたらがターゲットかあ?」
手元の紙とメイフォン夫妻を見比べながらそう言うのは、集団の先頭に立つローブをまとった人物。
温暖なこの地域にあって日中から長袖で裾の長いローブを着込み、あまつさえフードまでしっかりと被っている不審者スタイルだ。
人相書きであろう紙を持つのと反対の手に、いかにも魔法使いといった風情の杖を持っていなければ、見た目だけで通報されてもおかしくはない。
いや、言動もおかしいからやっぱり通報はされるかもしれない。
その後ろにはこれまたいかにもといった様子のチンピラが佇んている。
流石にモヒカンや謎のトゲが付いた肩パッドなどは着けていないが、それなりの体格で強面の男たちである。
「知らん。……が、バカボン貴族をシバいて狙われている人物なら私たちだぞ」
「じゃあ当たりだあ。そ~れ!」
会話が成り立ってるのか疑わしいレベルで、突然杖を振るい魔法を発動する不審者。
ザザは即座に身構えるが、エルサイノスの様子がおかしい。
ゆっくりと膝をつき、そのまま座り込み、目を瞑って首を傾ける。
────ぷぴー。
あらまあ立派な鼻提灯。
エルサイノスは眠ってしまった。
「あれえ、ちょっと眠気を感じるくらいの魔法のはずなんだけど、出力ミスったかな?」
不審者が杖の先端をコンコンと叩いている。
何を隠そうこのエルフ、脳筋すぎでデバフ系がめちゃくちゃよく効くのである。
命中率は強制的に100%まで引き上げられ、効果も倍増させるオマケ付きである。
後ろのチンピラたちは動いて良いのかどうかわからず、お互いに目線を合わせたりしながら様子を窺っている。
その隙に……というほどのこともないが、ザザが覚醒魔法を使ってエルサイノスを目覚めさせる。
「はっ、あれ、場所も時間も決まっていない幻の露店でしか買えないという伝説のショコラは!?」
「目の前のやつらをシバいたら、一緒に探してみような」
寝ぼけたことを言っているエルサイノスを見事に操縦したザザの機転によって、不審者集団は即座にゴンされた。
とんぼ返りで街に引き返し呼んだ官憲により引っ立てられる不審者集団。
なんだかもう依頼をこなす気分じゃなくなったなと、どちらからともなく今日は休みという雰囲気になった。
それでもいつもどおり露店巡りをして、普段とは違う時間であるため見慣れない露店が多いことにエルサイノスが喜んだりしつつ。
冒険者ギルドに寄って事情を説明、クエストは取り下げということで処理してもらった。
「いい加減、鬱陶しくなって来たな……」
ザザのその呟きに、エルサイノスが嬉しそうに尋ねる。
「撲滅にする? 殲滅にする? それとも根・絶・や・し?」
聞いたことのない三択を提示すな。
しかしそれも悪くないかもしれないと思ってしまうザザであった。
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