第11話 ……あにえすぅぅうぅ
翌週の月曜日、向けられる視線の数がいつもと桁違いだった。金曜日までは「見られた」なんて分かりやすいものは1つもなかったのに、今日は何かがおかしい。ちらちらとわたしの方を見ては、面識のない人がくすくすと笑う。
昇降口から3年3組の教室までで何回笑われたことか。まだ良かったのは、クラスメイトはいつも通りに接してくれていること。……いや、「大丈夫?」と口々に心配の言葉をかけてくれるのはいつも通りではないかもしれない。
ずんと沈んだ心のように、わたしの視線は机に落ちる。……どうしてこうなっているのか。心当たりは全くない。隣の席のアニエスが登校してきたら、泣きつく自信がある。頼むから早く来てほしい。お願いだから泣きつかせて。
そんな願いも虚しく、アニエスがやってきたのはホームルーム開始のチャイムと全く同じタイミングだった。和泉先生からアウトの判定をくらい、とぼとぼとわたしの隣の席に着く。次の休み時間こそ絶対に泣きつく。
だけど、集中力を総動員して授業のノートを取っていたり、聞き逃したところを先生に質問したり、アニエスがトイレに行ったりで、結局泣きつけたのは昼休みになってからだった。
「アニエスぅ……わたし、どうしたらいいのぉ……」
「よしよしいい子デス。……これは結構メンタルやられてマスね」
抱きついたアニエスは、小さな子どもにするようにわたしの頭を撫でてくる。クラスメイトから可哀想なものを見る目で見られているのなんて今はどうでもいい。見知らぬ人から笑われるの……つらい。きつい。こわい。お昼ご飯を食べなければいけないのに、食欲が湧かない。
「……あにえすぅぅうぅ」
「あーハイハイ分かりまシタ。それで、伊都がこんなのになっているのはあのうわさのせいで間違いないデスか?」
……うわさ? そんなものが流れてるの? アニエスから一度離れてその深い青の瞳と目を合わせる。
「伊都……その何言ってるのか分からないみたいな顔、さては知りませんでシタね?」
知らないものは知らない。頷くと、呆れたようにアニエスはため息を吐いた。
「アナタを見て笑う人たちがなんて言っていたか、ちゃんと聞きまシタ?」
「……そういえば何か言っていたかも?」
「思い出してくだサイ」
左上に視線をやって、言われた通りに考えてみる。確かあの人たちは——
『偽物と仲良くしてんのってあれ?』
『アイツに優しくするなんて相当の変わり者じゃん』
『ねぇ知ってる? あの人、気づいてないらしいよ?』
『まじで? やばくない?』
——と言っていた。
「……ごめんアニエス。思い出したけど全く話が見えてこない」
またもやため息を吐いて、アニエスは頭を抱える。……幸せ、逃げないように気をつけてね?
「伊都が最近仲良くしているのは誰デスか? というかワタシ以外の伊都の友達は誰デスか?」
わたしが最近仲良くしている人……、アニエス以外のわたしの友達……。そんなもの1人しかいない。
「……類ちゃん?」
「そうデス。その子デス」
「……なんで類ちゃんとわたしがうわさされてるの?」
「……ワタシに聞かないでくだサイ」
アニエスはあからさまに目を逸らした。絶対に何か知っている。
わたしには言えないことなの? 何か気まずいようなことなの? 知ってるんでしょ? 教えてよ? そんな心を込めてじっと見つめた。我ながら若干の狂気すら感じるけど、今はなりふり構っていられない。
「い……」
「い……?」
「和泉先生に相談してみたらどうデスか? ……そうデス、それがいいはずデス」
すん、と光を消した瞳でぶつぶつと呟くのが聞こえる。
「な、何がいいの? アニエ——」
「和泉先生! 伊都から相談したいことがあるらしいデスよ!」
アニエスは勢いそのままに、ちょうど教室まで何かを取りにきていた和泉先生へ向かって叫んだ。
「ちょっ……アニエス!?」
和泉先生とクラスメイトは、驚いたようにわたしたちへと視線を向ける。いつもの人の良い笑顔に切り替えた和泉先生は、「どうしたの?」と近づいてきた。ここまで来てもらったのに相談しないという選択肢はない。
がくがくとアニエスを揺さぶるのを止めて、椅子に座るわたしへ視線を合わせてくれた和泉先生に、ぽつりぽつりと話し出した。
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